①【リスク管理】負荷量をバイタルや1RMだけで決めちゃダメな理由

①【リスク管理】負荷量をバイタルや1RMだけで決めちゃダメな理由 PT臨床

【今回のテーマ】 若手理学療法士に向けた「リスク管理と負荷設定」シリーズの第1回です。バイタルサインや1RM(最大挙上重量)といった数値上の正論だけで負荷を決めることの限界を知り、患者さんの心理的背景や動きの質(パフォーマンス)を考慮した、臨床10年超の視点による真の負荷設定の極意を学びます。

※新人さん向けの記事はこちら

【免責事項】 ※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。金融商品、物品についての記載があってもそれらの使用を推奨するというのはあくまで個人の見解であることを明記します。それによって生じたいかなる問題も責任を取りかねます。 ※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。 ※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。

【リスク管理シリーズ①】負荷量をバイタルや1RMだけで決めちゃダメな理由:数値の裏にある「人間」を読み解く

はじめに

「バイタルは正常範囲内。1RMから計算した負荷も妥当。……なのに、なぜかリハビリが進まない。患者さんの表情がどんどん曇っていく。」

臨床10年超の今だから白状しますが、若手の頃の私は、まさにこの「数値の正論」という鎧で自分を固めていました。「教科書にはこう書いてあるんだから、これが正しいんです」という無言の圧力を、無意識に患者さんにぶつけていたのです。

2人の子供を育てている今ならわかります。イヤイヤ期の我が子に「栄養バランス的にこれを食べるのが正解だよ」と正論を説いても、ひっくり返って泣かれるだけですよね。まずは「何が嫌なのか」に寄り添わなければ、一歩も前に進めません。リハビリの負荷設定も、実は全く同じなのです。

1. 教科書が教えてくれない「1RM測定」の限界

新人研修で習う「10RM(10回持ち上げられる限界の重さ)から負荷を決める」という手法。理論としては確立されていますが、実際の現場でこれを厳密に測るのは、想像以上に困難です。

測れない事情: 痛みがある、疲労を訴えられない、あるいは数値に出る前に心が折れてしまう。 数値以外の影響: その日の睡眠不足、病棟でのストレス、リハ職への不信感。これらは1RMの計算式には入っていません。

「数値としての1RM」に固執しすぎると、目の前の「人間」が見えなくなってしまいます。

2. 正論の前に「ラポール」。無視すると不信感の借金が溜まる

いくらバイタルが安定していても、患者さんが「もういい」「痛い」とサインを出している時、あなたはどうしていますか?

心理的な壁を作らせない: 「あと少しだけ頑張りましょう!」という励ましも、度を越せば「この人は私の話を聞いてくれない」という不信感に変わります。 戦略的撤退のススメ: 短時間頻回の介入に切り替える、メニューの順番を入れ替える(起立→臥位→起立など)といった工夫で、信頼関係という「貯金」を減らさずに負荷を調整するのが長期的にうまくやっていくコツです。

3. 「筋肥大」という犯人を追いかけすぎていないか?

「筋力が付けば歩けるようになる」という考えは、時にリハビリを迷走させます。

「賦活」という選択肢: 筋肉を大きくすること(筋肥大)が目的ですか?それとも、今ある筋肉を適切に使えるようにすること(賦活)が目的ですか? パフォーマンスの低下を見逃さない: 負荷を上げたせいで代償動作が強まり、動きの質(パフォーマンス)が落ちているなら、それは「過負荷」です。

理想のゴールは筋トレのための筋トレではなく、普段から「使える状態」にすること。これが本来目指すべき負荷設定の着地点です。

おわりに:鎧を脱いで、対話を始めよう

かつての私は、知識という「鎧」を着ていなければ、患者さんに向き合うのが怖かったのかもしれません。でも、10年超経ってようやく、患者さんの「もういい」という言葉の中に、次のリハビリを成功させるヒントが隠れていることに気づきました。

数値はあくまで「目安」です。主役は常に、目の前で呼吸をし、心を持っている患者さん自身なのです。

【最後に】 最後までお読みいただき、ありがとうございました。数値に頼りすぎず、目の前の患者さんの「心」と「動きの質」を観察することが、安全で効果的なリハビリへの近道です。

次回は、臨床現場でのバイタルサインの捉え方をさらに深掘りします。「[▶ 第2回:バイタルサインを『点』ではなく『線』で読む〜「下の血圧」と「脈圧」を使い負荷量を調整する〜]」をテーマに、数値を状態変化のサインとして読み解く技術をお伝えします。ぜひ続けてご覧ください。

この「リスク管理シリーズ」を最初から順に学びたい方は、以下のリンクをご活用ください。 ・[▶ このシリーズの記事一覧はこちら]

また、リスク管理の知識を具体的な疾患に応用したい方には、以下の関連マガジンもおすすめです。
・[▶ 【脳卒中病態シリーズ】病型ごとのリスク管理]
・[▶ 【脊椎シリーズ】術後プロトコルを超えるための臨床思考]

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このテーマをもう少し広げて読みたい方へ

この記事の内容を実際の場面へつなげるときは、次のような判断で迷いやすくなります。

  • バイタルが正常でも何を見落としうるか
  • 1RM以外の反応をどう負荷設定に使うか
  • 介入前後の変化をどう統合するか

関連する具体例や、別の場面での考え方は、note・Kindle・ツールにも整理しています。

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