【今回のテーマ】 新人理学療法士が直面する「深部静脈血栓症(DVT)」のリハビリ管理について、かつての「絶対安静」から2025年現在の「抗凝固療法下の歩行推奨」へと進化した最新のガイドライン(日本循環器学会等)に基づいた、安全な離床判断とリスク管理の極意を学びます。
【免責事項】 ※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。金融商品、物品についての記載があってもそれらの使用を推奨するというのはあくまで個人の見解であることを明記します。それによって生じたいかなる問題も責任を取りかねます。 ※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。 ※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。
【リスク管理シリーズ⑦】DVT(深部静脈血栓症)は歩かせる?安静?最新知見に基づくリハビリの進め方
前回は、致死的なリスクを伴う腹部大動脈瘤(AAA)合併時の血圧管理と、息切れを見逃さないモニタリングのコツについてお伝えしました。(※前回の内容を軽くおさらいしたい方は [▶ 前回の記事へ戻る] からどうぞ)
今回は、臨床現場で非常に遭遇頻度が高く、かつてのリハビリの常識が大きく覆された「DVT(深部静脈血栓症)」の管理について解説します。
1. はじめに:私の「失敗談」
2019年頃、若手だった私はDVTを合併した患者さんを担当していました。「血栓を飛ばしてしまったら大変だ」と考え、患部外の練習に終始していた私に、研修医の先生がこう仰いました。 「最近のガイドラインでは、歩行が推奨されているのでは?」 自分の知識がアップデートされていないことに気づき、プロとして猛烈に恥ずかしい思いをしたことを今でも鮮明に覚えています。今回は、あの時の私のような思いを皆さんにさせないよう、2025年現在の最新知見を共有します。
2. なぜDVT下での運動は「怖い」のか?
なぜ私たちがDVT患者の足を動かすのを躊躇うのか。それは「血栓遊離」による肺血栓塞栓症(PE)のリスクがあるからです。PEは極めて致命的な合併症です。現場で以下の変化があれば「ヤバイ」と直感してください。
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突然のSpO2低下: 酸素投与を増やしても改善しない。
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原因不明の頻脈: 安静にしているのに心拍数が急上昇する。
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冷汗・胸痛・呼吸困難: 患者さんが「苦しい」「おかしい」と訴える。
これらは肺の血流が途絶え、右心不全を起こしかけているサインです。最悪の場合、心肺停止に至るため、リハビリ前の評価が不可欠なのです。
3. 臨床に潜む高リスク患者たち
DVTは循環器病棟だけの問題ではありません。私たちの目の前には常にリスクが潜んでいます。
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整形外科: 圧迫骨折での長期臥床、大腿骨近位部骨折の術前後。
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脳血管: 発症早期の麻痺による不動。
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神経難病: パーキンソン病の進行期に伴う活動量低下。
理学療法士として関わるほぼ全ての領域において、DVTは「隣り合わせの危機」なのです。
4. ガイドラインの変遷:2017年から2025年へ
大きな転換点は、2017年のガイドライン改訂でした。「適切な抗凝固療法下であれば、安静にするよりも歩行訓練を行うことを推奨する」と明確に位置づけられました。 さらに2025年現在の知見では、その範囲が広がっています。
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上肢DVTへの言及: カテーテル関連の上肢DVTに対しても、下肢同様に早期離床が考慮されます。
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肺塞栓症(PE)発症後: 血行動態が安定し、抗凝固療法が開始されていれば、早期離床が推奨されるようになっています。
5. 離床を支えるコンディショニング
「歩行推奨」といっても、安全に進めるためには以下の徹底が欠かせません。
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抗凝固療法の開始確認(パスポート): ヘパリンやDOAC等の薬物療法なしでの離床は原則NGです。
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血栓部位の確認: 膝窩静脈より末梢の「遠位型」か、それより中枢の「近位型」かを確認します。近位型+未治療は歩行以前の問題です。
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圧迫療法と脱水管理: 弾性ストッキングで静脈還流を助け、水分摂取状況を確認して血液の粘稠度を下げることが重要です。
6. リハ職が武器にすべき評価:Wells score
診断の「門番」であるWells scoreは、リハ職にとって非常に強力なツールです。こちらは深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症(PE)の臨床的確率を、病歴や症状から数値化して判定する診断予測スコアです。
各項目を1点とし、合計点で低・中・高リスク(または可能性あり/なし)を判定します。
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活動性のがん(6ヶ月以内に治療中、または緩和ケア中)
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下肢全体の腫脹
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片側性のふくらはぎの腫れ(健側より3cm以上太い)
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麻痺、不全麻痺、または下肢のギプス固定
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最近の長期臥床や大手術(12週以内)
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深部静脈走行に沿った局所的な圧痛
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側副表在静脈の怒張(静脈瘤を除く)
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既往歴(過去にDVTの診断がある)
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凹窩性浮腫(むくみ)(片側のみ)
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他の診断名がDVTと同等以上に考えられる場合(これのみ -2点)
と、多くの項目がありますが、臨床での評価は下記を知っていれば10秒で可能です。
分類評価項目(主なもの)判定基準(カットオフ値)
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2点(Likely)への到達は一瞬: 「3日以上の臥床(1点)」がある患者さんに対し、「ふくらはぎの把持痛」を確認するか、「下腿周径の左右差3cm以上」を実測する。
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このどちらか一つで即座に2点(Likely)に達します。
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数値を武器にする: 「なんとなく腫れている」を「健側より3cm太い」という客観的事実に変えましょう。
【最後に】 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 「壊さないこと」は大切ですが、根拠のない「安静」は廃用を招き、DVTを悪化させます。最新のガイドラインを武器に、抗凝固療法の有無や血栓の部位を正しく評価し、安全に歩行へと繋げていきましょう。
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臨床的なリスク管理の他、接遇や多職種連携、病棟との抑制に対する考え方の差異など、対人トラブルを避けるリスク管理、「臨床での振る舞い」についてもシリーズ記事を書いています。
・【目標設定・接遇・多職種連携】臨床での振る舞いの軸
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