【今回のテーマ】 真正面から戦わないUSN。無視を「躱す」ことで麻痺側の廃用を防ぎ、回復の土台を作るための誘導術とリスク管理(※残る課題が半側空間無視だけの場合を除きます)
※この記事は高次脳姿勢定位シリーズの各論です。全体を理解したい方は導入編から読むと理解が深まります。導入編はこちら①【高次脳】脳画像:「どこが壊れたか」ではなく「どう繋がらなくなったか」で考える
【免責事項】 ※本記事に掲載されている内容は、一般的な臨床知見に基づく執筆者個人の見解であり、個別の症例における医学的判断や治療結果を保証するものではありません。実際の臨床においては、必ず主治医の指示に従い、患者さんの個別性に合わせて、ご自身の責任で判断・実施してください。本記事の利用により生じたトラブルや損害について、執筆者は一切の責任を負いかねます。 ※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。
前回は、机上検査ができない注意障害を客観的データに変える「BAAD」の実践についてお伝えしました。(※前回の内容を軽くおさらいしたい方は [▶ 前回の記事へ戻る] からどうぞ) 今回は、右半球損傷のケースで必ず直面する「半側空間無視(USN)」に対する、現場目線のリアルな介入戦略について深掘りします。
はじめに:USNとは真正面から戦わない
臨床10年超、二児の父として育児にも奔走するパパPTです。 「患者さんが左側を全く気に留めてくれない」 「リハビリ中にどんどん身体が右に回旋してしまう」 このような半側空間無視(USN)の症状に対し、新人時代の私は「無視を改善させなければ」と真正面から必死にアプローチしていました。しかし、現在の私の考えは異なります。
USNそのものと格闘してリハビリが進まなくなるよりも、無視をうまく「躱して(かわして)」、まずは麻痺側への入力を絶やさない環境を作ることが重要です。今回はその具体的な「躱し方」と「誘導術」をお伝えします。
1.USNの本質:いずれ改善するが「今」をどう凌ぐか
USNの本質は、注意ネットワークの不均衡です。多くの場合、急性期から回復期にかけて徐々に軽減していきますが、無視がある時期に「何もできない」と放置してしまうと、麻痺側の廃用が進行し、二度と戻らない機能低下を招きます。
私の解釈はこうです。 「無視はいずれ軽減していく。だからこそ、無視があるうちはそれを上手く躱し、麻痺側への入力を絶やさない環境を作る」
無視を治そうと躍起になるより、無視がある状態でも「麻痺側を認識せざるを得ない工夫」を凝らし、廃用を防ぐ介入を優先するのが、実戦的なアプローチとなります。
2.現場で使える「無視側」への誘導テクニック
基本戦略はシンプルです。「麻痺側に向いてもらう回数、麻痺側を使う回数を、1回でも多く稼ぐこと」です。
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道具の配置で「回旋」を生む(輪投げの活用): 輪(持つ方)を見える側(非無視側)に置き、棒(かける方)を見えにくい側(無視側)に置きます。こうすることで、輪を取った後にターゲットを探すための「自発的な回旋」が必ず生まれます。
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言葉がけの「逆説」を利用した顔の向け方: 無視側から「こっちを見て」と言うと、反射的に反対を向いてしまうことがあります。そんな時は、無視側から声をかけ、患者さんが反対を向いたタイミングで「そっちじゃなくて、反対側ですよ!」と指示します。反動を利用して、少しだけ無視側を向いてくれる瞬間を作ります。
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非麻痺側の「手」をガイドにする: 非麻痺側の手で輪を持ち、その手をセラピストが誘導しながら運びます。「自分の手をずっと目で追いかけてください」と伝えることで、視線を無視側へと引き込みやすくなります。
3.緊急事態:長下肢装具(KAFO)歩行中の強い無視
長下肢装具(KAFO)での歩行練習中、疲労により無視が強まり、後ろを振り向くほど体が回旋してしまうことがあります。これは転倒リスクが極めて高い状態です。
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即時対応: その場で「ばんざい」をさせます。両上肢を挙上させることで、代償的な回旋が抑制され、体幹が正中を向きやすくなります。
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判断の基準: ばんざいをしても落ち着かない、あるいは注意が散漫なままなら「座ってしまいましょう」です。無理に歩き続けず、安全にリハビリを切り上げる勇気ある撤退も、立派なリスク管理です。
まとめ:廃用を防ぐことこそが、PTの生存戦略
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 USNへの介入は、真正面からぶつかるだけでなく、環境や反射をうまく利用して「躱しながら進める」のがコツです。患者さんの注意が戻ってきた時に、麻痺側が使い物にならないほど廃用が進んでいるという事態だけは、我々理学療法士が確実に防がなければなりません。
次回は、小脳や視床のイメージを根底から覆す、見落とし厳禁の病態について解説します。ぜひ続けてご覧ください。
次回記事はこちら:④【高次脳】CCAS見落としてませんか?小脳・視床リハの落とし穴
前回記事はこちら:②【高次脳】机上検査のできない注意障害の自立の根拠:観察評価BAAD
また、リスク管理の知識を具体的な疾患に応用したい方には、以下の関連マガジンもおすすめです。
・[▶ 【脳卒中病態シリーズ】病型ごとのリスク管理]
・[▶ 【脳卒中歩行再建シリーズ】脳卒中片麻痺者への歩行再建:装具療法を中心に]
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