【今回のテーマ】 リハビリ中に遭遇する「手足の震え」について、振戦・痙攣・クローヌス・シバリングの機序の違いを整理し、現場ですぐに使える判別法と中止・報告の基準を学びます。単なる現象として流さず、神経系のSOSを正しくキャッチする臨床判断力を養います。
【免責事項】 ※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。金融商品、物品についての記載があってもそれらの使用を推奨するというのはあくまで個人の見解であることを明記します。それによって生じたいかなる問題も責任を取りかねます。 ※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。 ※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。
【リスク管理シリーズ④】見落とし注意!痙攣・振戦・クローヌスを見分けられていますか?
前回は、離床をためらう大きな要因である「覚醒と起立性低血圧」への対処法についてお伝えしました。(※前回の内容を軽くおさらいしたい方は [▶ 前回の記事へ戻る] からどうぞ) 今回は、リハビリ中に患者さんの体がガクガクと震え出した際、それが「放置していいもの」か「即座に医師へ報告すべきSOS」かを判断するためのガイドラインです。
1. はじめに:その「震え」、放置していいサインですか?
リハビリ中に患者さんの手足が震え出したとき。「不随意運動かな……一旦置いておこう」とスルーしてしまった経験はありませんか?
正直に言えば、私自身もそうでした。起きた直後の不随意運動、徐々に拡大していることを見落とし、そのまま嘔吐させてしまいナースコールでドクター・看護の皆様に多大なご迷惑をおかけした経験があります。
不随意運動に関わる際には、その裏にある「脳の悲鳴」や「神経系のSOS」というリスクに思考が及んでいないのは、専門職として非常に危うい状態です。今回は、臨床現場で迷わないための機序の整理と、実戦で使える対応基準をまとめます。
2. 臨床で出会う4つの「意図しない動き」とその機序
まず、私たちが臨床で遭遇する動きの正体を整理しましょう。
1. 振戦(しんせん): 【機序】大脳基底核や小脳などの運動調節ネットワークの異常。リズミカルな交互収縮が特徴です。
2. 痙攣(けいれん): 【機序】脳の神経細胞の過剰な電気放電。筋肉に強烈な収縮命令が届き続けている状態です。
3. クローヌス: 【機序】錐体路障害による伸張反射の異常亢進。筋肉が急激に引き伸ばされた刺激で起こる律動的な動きです。
4. シバリング: 【機序】低体温時などに脳が「体温を上げろ」と命令し、熱を産生させている生理現象です。
3. 現場での判別法・その場での対応・報告の基準
■ 振戦か、痙攣(初期)かを見極める
痙攣の初期は動きが小さく、手で抑えると止まってしまうことがあります。ここで安易に「振戦だ」と判断するのは危険です。
判別ポイント: 振戦は手を離すと再び同じリズムで動きますが、痙攣は「範囲の拡大」に注目してください。手元から肘、肩へと近位へ広がってきたら、脳内での異常放電が広がっているサインです。
アクション: 部位の拡大や意識の変容が見られたら、即座にリハビリを中断し、臥床(がしょう)を促します。嘔吐による誤嚥を防ぐ側臥位の準備も重要です。
■ クローヌス:止める技術とリハの指標
クローヌスは「急激に伸ばされること」がスイッチです。
対応: 焦らずに関節を「筋肉が緩む方向(短縮位)」へ誘導します。足クローヌスなら、つま先立ちをする方向(底屈)に動かせばピタッと止まります。
指標: 単に止めて終わりではなく、「介入中にどれくらい出やすくなったか」を記録し、痙性の変化を追うリハビリの指標にしましょう。
■ シバリングへの対処法 対応: 生理現象ですが、体力を著しく消耗させます。リハビリは中断し、保温を最優先してください。
4. セラピストが下すべき「臨床的解釈」と連携のコツ
得られた情報をどう捌くかが、プロとしての腕の見せ所です。
振戦: 様子を見つつリハビリ継続。ただし看護師と変化を共有。
痙攣: 「部位の拡大・意識低下・突然の嘔吐」があれば即中止し、速やかに報告。 クローヌス: 頻発するなら歩行時の転倒リスクが高いと予測し、装具の調整やポジショニングの見直しを提案します。
おわりに:専門職の視点でサインを拾い上げる
「ただの震え」として流すか、「神経系のサイン」として拾い上げるか。その視点の差が、リスクを未然に防ぎ、患者さんを守ることに繋がります。迷ったときは、まず「抑えてみる」「筋肉を緩める」。そこから得られる情報は、どの評価シートよりもリアルな患者さんの状態を教えてくれます。
次回予告:脳のダメージが「腸」を止める?見落としがちな全身管理のリスク
痙攣(けいれん)への対応という、「局所」から始まる急変を見たあとは、「全身」へと視点を広げましょう。
脳卒中急性期、麻痺の状態やバイタルだけに目を奪われていませんか? もし、「お腹がパンパンに張っている」「数日間ガスが出ていない」というサインを見逃して無理に離床を進めてしまったら……。それは、回復を助けるどころか、腸管の穿孔(破裂)や敗血症という致命的な事態を招く引き金になるかもしれません。
次回、リスク管理シリーズ第5回。 「【リスク管理】脳卒中早期だからって動かしたら破裂!?麻痺性イレウスを知る〜自律神経の嵐が引き起こす、勇気ある『中止』の判断基準〜」をお届けする予定です。ぜひ続けてご覧ください。
この「リスク管理シリーズ」を最初から順に学びたい方は、以下のリンクをご活用ください。 ・[▶ このシリーズの記事一覧はこちら]
また、リスク管理の知識を具体的な疾患に応用したい方には、以下の関連マガジンもおすすめです。
・[▶ 【脳卒中病態シリーズ】病型ごとのリスク管理]
・[▶ 【脊椎シリーズ】術後プロトコルを超えるための臨床思考]
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