心不全の原因をどう読む?同じEFでも運動制限因子が異なる理由

心不全の原因と運動制限因子を整理する図解 PT臨床
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心不全患者のリハビリでは、検査値を暗記するだけでなく、患者さんの循環動態と運動時反応を結びつけて考える必要があります。本記事では「心不全の原因をどう読む?同じEFでも運動制限因子が異なる理由」を、臨床で使える順序に整理します。

心不全の患者さんを担当したとき、 EF 35% BNP 800 pg/mL 下腿浮腫あり 利尿薬使用中 といった情報は比較的目に入りやすいと思います。 しかし、もう一つ確認しておきたいことがあります。 「そもそも、なぜこの人は心不全になったのでしょうか?」

心不全は、それ自体が一つの原因によって起こる病気ではありません。 心筋梗塞によって心筋が傷んだ人もいれば、長年の高血圧によって心臓が硬くなった人もいます。 弁膜症によって心臓に負担がかかっている人もいれば、心房細動や心筋症が背景にある人もいます。 つまり、

同じ「心不全」、同じEFでも、その中身は違います。 そして、その違いはリハビリ中の反応にも表れます。 今回は、 「EFが同じなら、同じように考えてよいのか?」 という視点から考えてみます。 心不全は「原因」ではなく「結果」

カルテに「心不全」と書いてあっても、それだけでは病態のすべては分かりません。

心不全の背景には、 虚血性心疾患 高血圧 弁膜症 心房細動・その他の不整脈 心筋症 肺高血圧・右心系の問題 など、さまざまな原因や増悪因子があります。

さらに実際の患者さんでは、 高血圧+心房細動+弁膜症 のように複数の問題が重なっていることも珍しくありません。 その結果として、 心筋がうまく収縮できないのか。 心室が硬くて血液を受け入れにくいのか。 弁から血液が逆流しているのか。 不整脈によって充満や拍出が不安定なのか。

右心系や肺循環がボトルネックなのか。 同じ心不全でも中身は変わります。 だからこそ、EFを見るときにも、 「何%だったか」だけでなく、「なぜこのEFになっているのか」 を確認する必要があります。

同じEF35%でも、運動を制限するものは違う

例えば、4人の患者さんが全員、 LVEF 35% だったとします。 数字だけを見れば、全員HFrEFです。 しかし、心不全に至った背景が違えば、リハで注意して見たいポイントも変わってきます。

症例A:広範囲心筋梗塞後のEF35%

広範囲の心筋梗塞によって心筋が障害され、左室収縮機能が低下している患者さんです。 この患者さんでは、低下した心機能だけでなく、残存虚血や不整脈も重要になります。 歩行距離を延ばしたときに、 胸痛・胸部圧迫感

血圧反応 心拍数 不整脈 息切れ Borg

運動後の回復

などを確認します。 つまり、 EF35%だから低負荷にする というより、

「この心臓で、虚血や不整脈を起こさずにどこまで負荷へ対応できるか」 を見ていく必要があります。 同じ運動を実施できたとしても、昨日より胸部不快感が出た、心拍数が大きく上昇した、血圧反応が変わったということであれば、その変化を軽視できません。

症例B:拡張型心筋症のEF35%

こちらもEF35%ですが、背景は拡張型心筋症です。 左室が拡大し、心筋の収縮力が低下しています。 この患者さんでは特に、

運動時に必要な一回拍出量・心拍出量をどこまで増やせるか

という問題が重要になります。 例えば歩行を開始すると、 心拍数はどんどん上がるのに、血圧があまり上がらない。 さらに、

Borgや呼吸数は大きく上昇する。 筋力的にはまだ歩けそうなのに、循環がついてこない。 こうした反応が見られることがあります。 また左室拡大に伴う機能性僧帽弁逆流や、不整脈を合併している場合もあります。

そのため、 血圧 心拍数 Borg 呼吸数 脈圧

運動時間

回復性 体重や浮腫などのうっ血所見 を組み合わせて見ていきます。

症例C:頻脈誘発性心筋症のEF35%

3人目もEF35%です。

しかし、この患者さんでは長期間続いた頻脈が心機能低下の大きな原因になっています。 この場合、現在のEF35%という数字だけでは不十分です。 重要なのは、 「治療によって今どう変化しているか」

です。 例えば、 入院時:AF、HR 140/分 ↓ 薬物治療・アブレーション ↓ 現在:HR 70〜80/分 ↓ EFも改善傾向 という経過なら、現在は心機能が回復している途中かもしれません。 リハでも、 同じ負荷での心拍数 Borg 血圧

運動時間

回復時間 が日々変化してくる可能性があります。 つまりこの患者さんでは、 EF35%という現在値だけで固定して考えず、心拍数・リズム・EF・運動反応の「推移」を見る ことが重要になります。

症例D:重症弁膜症を背景としたEF35%

4人目もEF35%です。

しかし背景に重症弁膜症があります。 例えば大動脈弁狭窄症なら、左室から血液を送り出す出口そのものが狭くなっています。 僧帽弁閉鎖不全症なら、左室から送り出された血液の一部が左房へ逆流します。 この場合、

「EF35%だからどの程度運動できるか」 だけでは考えられません。 重要なのは、 どの弁に、どの程度の問題が残っているのか です。 リハでは、 労作時呼吸困難 胸部症状 めまい・失神前症状 血圧反応 不整脈 肺うっ血

などを確認します。 また、弁置換術やTAVIなどの治療後であれば、治療前と治療後では血行動態が変化している可能性があります。 そのため、 過去のEFや診断名だけではなく、現在の弁機能と循環動態を見る

必要があります。

4人ともEF35%。でも、見ているものは違う

ここまでを並べてみます。 心筋梗塞後のEF35% → 虚血・不整脈・血圧反応 拡張型心筋症のEF35% → 心拍出量を増やせるか・うっ血・回復性 頻脈誘発性心筋症のEF35% → 心拍数・リズム・治療後の回復過程 弁膜症を背景としたEF35%

→ 弁による血行動態・症状・血圧反応 全員同じEF35%です。 しかし、 「何がこの人の運動を制限しそうなのか?」 は違います。

では、EF60%なら安心なのか?

今度はEF60%の患者さんを考えてみます。 基礎編①でも触れたように、 EFが保たれている=心臓に問題がない

ではありません。

EFはあくまで、 左室に入っていた血液のうち、何%を一回の収縮で駆出したか という割合です。 そのためEF60%でも、心不全になることがあります。 そして、ここでも原因によって運動を制限するものは変わります。

症例E:高血圧性心疾患のEF60%

長期間の高血圧によって左室肥大が進み、心室が硬くなっている患者さんです。 EFは60%。 収縮率だけを見れば保たれています。 しかし、心室が硬くなると、

血液を送り出すことより、血液を受け入れること が問題になる場合があります。 安静時には症状が軽くても、運動によって静脈還流や心拍数が増えると、左室充満圧が上昇し、息切れが強くなることがあります。 そのため、

労作時呼吸困難 呼吸数 Borg 血圧

運動後の回復

肺うっ血の所見 などを確認します。 「EF60%なのに、なぜこんなに息切れするのだろう?」 というときに、EFだけでは見えない問題を考える必要があります。

症例F:心房細動があるEF60%

こちらもEF60%です。 しかし慢性心房細動があります。 心房細動では心房収縮が失われ、RR間隔も不規則になります。 そのため、 EFは保たれているのに、心拍数が上がる割に運動耐容能が伸びない ということがあります。 リハでは、 安静時心拍数

運動時の心拍数

Borg 血圧 症状

運動時間

運動後の回復

を確認します。 AFでは心拍数だけから運動強度を決めにくいため、 心拍数+Borg+血圧+症状+時間+回復性 という複数の情報から判断することが重要です。

症例G:弁膜症があるEF60%

ここもEFだけを見ると見誤りやすいところです。 例えば僧帽弁閉鎖不全症では、左室から送り出された血液の一部が左房へ逆流します。 EFは、 「左室から出ていった割合」 を示しています。 しかし、そのすべてが大動脈を通って全身へ送られているとは限りません。 つまり、 EFが保たれていても、有効な前方拍出が十分とは限らない

ということです。 また、大動脈弁狭窄症でもEFが保たれたまま重症化する場合があります。 したがって、 EF60%だから弁膜症も軽い とは判断できません。 弁の重症度、症状、血圧反応、心腔の大きさなどを併せて確認します。

症例H:心アミロイドーシスのEF60%

心アミロイドーシスでは、心筋にアミロイドが沈着することで心室が硬くなります。 この患者さんもEF60%だったとします。 しかし、 EFは割合であって、送り出した血液量そのものではありません。

例えば左室に入る血液量自体が少なければ、その60%を送り出していても一回拍出量は小さい可能性があります。 そのため、 EF60% 低血圧傾向 脈圧が小さい 少し動くと息切れ 疲労が強い という患者さんも存在します。

こうした場合にはEFよりも、

実際に運動したときに循環がどの程度対応できているか

を見ることが重要です。

症例I:右心系に問題があるEF60%

最後もEF60%です。 しかし、ここで覚えておきたいのは、 LVEFは「左室」の駆出率 だということです。 LVEFが60%でも、右室機能が正常とは限りません。 肺高血圧や右室機能低下があれば、 右室から肺へ十分血液を送れない ↓

左心系へ戻ってくる血液も増やせない ↓

運動時に心拍出量を増やしにくい

ということがあります。 また、 下腿浮腫 頸静脈怒張 腹水 肝うっ血 食欲低下 など、体静脈系のうっ血が目立つこともあります。

つまり、 LVEF60%だから循環予備能も正常 とは限らないのです。 EFは「病名」ではなく、心臓を見る一つの窓 ここまで9人の患者さんを見てきました。 EF35%でも、 心筋梗塞後なら虚血・不整脈 拡張型心筋症なら心拍出量とうっ血

頻脈誘発性心筋症なら心拍数と回復過程 弁膜症なら弁が作る血行動態 が重要になります。 一方、EF60%でも、 高血圧性心疾患なら充満の問題 心房細動ならリズムと心拍数 弁膜症なら狭窄・逆流 心アミロイドーシスなら一回拍出量や循環予備能

右心系なら右室機能と肺循環 が問題になり得ます。 だからカルテでEFを見たときには、 「EFは何%?」 で終わらず、 「なぜこのEFになっている?」 そして、 「この患者さんでは、何が運動時のボトルネックになりそう?」

まで考えてみます。 私ならカルテをこの順番で見ます 初めて心不全患者さんを担当するときには、

心不全の原因疾患を確認する

虚血?

高血圧?

弁膜症?

不整脈?

心筋症?

右心系?

② 心臓は現在どうなっている?

EF 左室肥大・拡大 左房拡大 壁運動 弁 右室機能 ↓

現在の循環上の問題を整理する

うっ血?

低心拍出・低灌流?

不整脈?

血圧?

呼吸困難?

運動時反応から制限因子を探す

心拍数 血圧・脈圧 SpO₂ 呼吸数 Borg 症状 回復性 という順番で整理します。

これまで心不全リハシリーズで扱ってきたSpO₂、Borg、血圧、BNP、体重、IN/OUTなどは、この③④を読み解く材料になります。 その上流にある、 「なぜこの人は心不全になったのか?」 まで見ることで、それぞれの数字がつながってきます。

まとめ:「EF○%の患者」から一歩先へ

心不全患者さんを、 「EF35%の患者」 「EF60%の患者」 として見るだけでは、その人の運動耐容能は分かりません。

同じEFでも、

心筋が傷んでいるのか。 心室が硬いのか。 弁に問題があるのか。 不整脈があるのか。 右心系がボトルネックなのか。 によって、運動時に起こる問題は変わります。 だからこそ、 EFだけを見ない。

BNPだけを見ない。 「心不全」という診断名だけを見ない。 その人が、

なぜ心不全になり、今どのような循環の問題を抱え、運動すると何がボトルネックになるのか。

そこまでカルテから仮説を立て、実際の離床・運動時の反応と照らし合わせることが重要です。 基礎編①でEFを理解したら、次は、 「同じEFでも、中身は同じではない」 と考える。 EFという一つの数字から、その患者さんの病態へ一歩踏み込む。 それが、心不全患者さんのカルテを読むときの大切な視点ではないでしょうか。

参考文献

日本循環器学会/日本心不全学会.2025年改訂版 心不全診療ガイドライン.
Kitai T, Kohsaka S, Kato T, et al. JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure. Circ J. 2025.
注意点
本記事は、リハビリ職が心不全の背景疾患と病態を理解し、運動時の反応を考えるための基礎知識を整理したものです。
原因疾患やEFだけから運動療法の可否・運動強度を決定することはできません。
また、
心筋梗塞後=必ず虚血が残っている
EF35%=必ず低心拍出
HFpEF=必ず拡張障害だけが原因
と単純化することもできません。
実際には複数の病態が重なっていることが多いため、診断名、心エコー、心電図、治療歴、症状、身体所見、検査値、実際の運動時反応などを組み合わせて判断する必要があります。
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ぴっちPT×AI|パパ理学療法士の「臨床やAI自動化の困り…
【臨床10年超|認定理学療法士|修士】
「明日から迷わない臨床」をテーマに脳卒中・整形・難病・考え方を発信
AI自動化やホームラボは、試行錯誤しながら解決した過程ごと記録
Kindle・医療小説・その他サイト制作や子育ても
急性期病院で働きながら、楽しく生きるパパ理学療法士です


免責事項:本記事は理学療法士など医療従事者の学習を目的とした一般的な情報です。個別患者の診断・治療・運動療法の可否を決定するものではありません。実際の臨床では、主治医の指示、施設基準、最新の診療ガイドライン、患者ごとの症状・検査所見を優先してください。

元記事をWordPress向けに再構成・加筆しています。元note記事:【心不全基礎④】なぜこの人は心不全になった?――同じEFでも「運動を制限するもの」は違う

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