心不全のうっ血とは?肺うっ血・浮腫・胸水・IVCの見方を解説

心不全のうっ血・浮腫・胸水・IVC評価を解説する図解 PT臨床
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心不全患者のリハビリでは、検査値を暗記するだけでなく、患者さんの循環動態と運動時反応を結びつけて考える必要があります。本記事では「心不全のうっ血とは?肺うっ血・浮腫・胸水・IVCの見方」を、臨床で使える順序に整理します。

前回の心不全基礎編①では、 EFとは何か というところから、

HFrEF

HFmrEF

HFpEF

HFimpEF

という分類や、

心拡大

CTR について整理しました。 そこで今回は、心不全を理解するうえでもう一つ重要な、 「うっ血とは、そもそも何が起きている状態なのか」 という話をしたいと思います。 心不全患者のカルテを見ると、 肺うっ血あり 下腿浮腫あり

胸水あり IVC拡張 頸静脈怒張あり といった言葉が並びます。 どれも「うっ血」と関係する言葉ですが、最初はそれぞれが別々の情報に見えます。 今回は心不全基礎編②として、

うっ血とは何か

肺うっ血と体うっ血はどう違うのか

カルテや患者さんのどこを見ればよいのか

を、できるだけ基本から整理してみます。

そもそも「うっ血」とは何でしょうか?

心臓は、 全身から戻ってきた血液を受け取り、 再び全身へ送り出すポンプです。 左心室で考えると、 肺から戻ってきた血液を受け取り、 大動脈へ送り出します。 ところが、心臓へ戻ってきた血液を十分に受け取り、送り出すことが難しくなると、心臓の手前側に圧がかかります。

うっ血という言葉を簡単に言えば、

心臓へ戻ってきた血液を十分に処理できず、その手前側の圧が高くなっている状態 です。 ここで大切なのは、うっ血を単純に、 「身体の中に水が多い状態」

とだけ覚えないことです。 もちろん体液貯留は重要です。 しかし本質的には、心臓の充満圧や静脈側の圧が高くなり、その影響が肺や全身静脈に現れている状態と考えると理解しやすくなります。 例えば左心室がうまく血液を処理できないと、

左室 ↓ 左房 ↓ 肺静脈 ↓ 肺 の方向へ圧が伝わっていきます。 すると、 肺うっ血 が起こります。 一方、 右心系で血液を処理しにくくなれば、 右房 ↓ 大静脈

↓ 全身静脈 へ圧が伝わり、 体うっ血 につながります。 つまり、

うっ血には大きく、

肺うっ血 と、 体うっ血 があります。

肺うっ血では何が起きる?

肺うっ血では、左房・肺静脈側の圧が高くなり、肺毛細血管から水分が肺間質、さらに重症になると肺胞側へ移動しやすくなります。 そのため、まず労作時の息切れが目立ち、進行すると安静時にも呼吸が苦しくなることがあります。

さらに進むと、 起坐呼吸 夜間発作性呼吸困難 肺ラ音

肺水腫 などがみられます。 2025年改訂版心不全診療ガイドラインでも、肺うっ血に関連する症状・徴候として、呼吸困難、起坐呼吸、夜間発作性呼吸困難、肺ラ音などが重要な情報になります。

なぜ横になると苦しくなるのでしょうか?

心不全患者では、 「寝ると息苦しい」 「座っている方が楽」 ということがあります。 これが、 起坐呼吸 です。 立位や座位では重力によって下肢側に分布していた血液が、

臥位になると胸郭側へ戻りやすくなります。 つまり、 静脈還流が増えます。 心臓に十分な余裕があれば処理できます。 しかし左心系がその血液を十分処理できない場合、 肺静脈圧がさらに上がって、 肺うっ血が悪化します。 そのため、

寝ると苦しく、起きると少し楽になる ということが起こります。 患者さんが、 「最近枕を2個、3個使っています」 と言っているのも、 単なる寝方の好みではなく、 心不全悪化のヒントになることがあります。 肺うっ血は胸部X線でも見ます

心不全患者では、

胸部X線を確認する機会が多いと思います。

肺うっ血では、読影所見に、 肺血管陰影増強 肺うっ血 間質性肺水腫 肺胞性肺水腫 胸水

などと書かれることがあります。 初学者の段階では、画像を細かく読影できなくても、「心拡大だけでなく、肺うっ血や胸水について読影結果に何と書かれているか」を見るだけでも十分役立ちます。

前回の記事では、 CTRや心拡大 を扱いました。 ここで区別したいのは、

心拡大と肺うっ血は同じものではない

ということです。 長期間心臓が拡大している患者でも、 現在うっ血が落ち着いている場合があります。 逆に、

心拡大がそれほど目立たなくても、

急激に肺うっ血が起こることがあります。 ですから胸部X線では、 「心臓が大きいか」 と、 「肺にうっ血があるか」 を別々に見ます。

体うっ血で確認したい所見

今度は右心系です。 右心系は、 全身から戻ってきた静脈血を受け取り、 肺へ送ります。 右房圧や全身静脈圧が高くなると、その影響が全身の静脈系に現れます。 すると、 下腿・全身浮腫 頸静脈怒張

肝腫大・肝うっ血 腹水 腹部膨満感 食欲低下 などがみられることがあります。 2025年ガイドラインでも、体うっ血の所見として、頸静脈怒張、下肢・全身浮腫、胸腹水、肝頸静脈逆流などが挙げられています。

なぜ足がむくむのでしょうか?

静脈系の圧が高くなると、毛細血管から血管外へ水分が移動しやすくなります。 すると、 下腿や足背に水分がたまり、 浮腫 になります。 特に立位や座位で過ごす人では、 重力の影響もあって、 下肢に浮腫が出やすくなります。

一方、臥床時間が長い患者では、仙骨部や臀部など、重力のかかる場所に浮腫が目立つこともあります。 つまり、 浮腫=足首だけを見る

ではありません。

頸静脈怒張はなぜ起こる?

頸静脈は、 右房につながる静脈系の圧を、 身体表面から見ることができる場所です。 右房圧が高くなると、 頸静脈にもその圧が伝わります。 そのため、 頸静脈が張って見える ことがあります。

これが、 頸静脈怒張 です。 心不全患者で、 「JVDあり」 などと記載されていることがあります。 これは、 右心系の圧が高くなっている可能性を示す重要な身体所見 です。

IVCを見るのは何のため?

心エコーでは、 IVC という言葉もよく出てきます。 IVCは、 Inferior Vena Cava:下大静脈 です。 全身から右心房へ戻ってくる大きな静脈です。 心エコーでは、IVCの径と呼吸による変化を見て、右房圧を推定する材料にします。

例えば、IVCが拡張し、呼吸性変動が乏しいという所見があれば、右房圧上昇を考える材料になります。 つまり、 体うっ血を考える一つの情報 です。 ただし、IVCだけで、「この患者は水分過剰です」と決めることはできません。 呼吸状態や人工呼吸、右心機能などの影響も受けます。 ここもシリーズ共通で、 単独指標にしない

ということです。 「浮腫がある=心不全」とも限りません 浮腫は心不全でよくみられます。 しかし、 浮腫があるから、 すべて心不全とは限りません。 例えば、 静脈不全 腎疾患 肝疾患 低アルブミン血症 薬剤 廃用 などでも浮腫は出ます。 逆に、 浮腫がないから心不全ではない

とも言えません。 肺うっ血が中心で、 下肢浮腫が目立たない患者もいます。 ですから、浮腫だけではなく、 呼吸状態 体重 頸静脈

胸部X線

BNP/NT-proBNP IVC 尿量・IN/OUT などを合わせて考えます。 「うっ血=身体に水が多い」だけでもありません ここは少し大切なところです。 心不全のうっ血というと、 水分が身体にたまりすぎている

と考えやすいと思います。 もちろん慢性的な体液貯留は重要です。 しかし急性心不全では、 身体全体の水分量が急激に増えたわけではなくても、 血液の分布が変わることで、 短時間に肺うっ血が悪化することがあります。 つまり、 「水分量」だけでなく「水分の分布」

も問題になります。 そのため、 体重がほとんど増えていないのに、 突然呼吸困難や肺うっ血が悪化する患者もいます。

2025年ガイドラインでも、肺うっ血には体液貯留だけでなく体液の再分布が関与することが示されています。

だから、 体重が増えていない=うっ血していない とは限りません。

リハビリ職なら、うっ血はどこを見る?

では実際にカルテや患者さんを見たとき、

どう整理すればよいでしょうか。

まず、

①肺うっ血を疑う症状は?

労作時呼吸困難 起坐呼吸 夜間発作性呼吸困難 呼吸数 肺ラ音 SpO₂ を確認します。

②体うっ血を疑う所見は?

下腿・仙骨部浮腫 頸静脈怒張 体重増加 腹部膨満感 腹水 を確認します。

③画像や心エコーでは?

胸部X線の肺うっ血・肺水腫・胸水

心エコーのIVC 右心系や弁膜症に関する記載 などを確認します。

④体液の推移は?

体重 尿量 IN/OUT 利尿薬への反応 を見ます。

⑤採血では?

BNP/NT-proBNP 腎機能 Naなどの電解質 を、単発値ではなく推移で確認します。 こうして、症状+身体所見+画像+体液変化+検査値を重ねて、現在のうっ血を考えます。 架空症例で考えてみます

82歳男性。

心不全増悪で入院。 入院時、 呼吸苦あり 起坐呼吸あり 下腿浮腫著明 体重+4kg

胸部X線で肺うっ血・胸水あり

とします。 この時点では、肺うっ血と体うっ血の両方を疑う情報がそろっています。 その後、 利尿によって、 体重−3kg 浮腫軽減 呼吸苦改善 胸水減少 となりました。 その後、利尿によって、 体重−3kg 浮腫軽減 起坐呼吸消失

胸部X線で肺うっ血・胸水減少

BNPも低下 となったとします。 このとき、単に、 「体重が3kg減った」

だけを見るのではなく、呼吸症状、浮腫、画像、BNPなどが同じ方向へ改善していることを確認すると、うっ血が改善している可能性をより確かに捉えやすくなります。 「水があるか」だけでうっ血を見ない

心不全のうっ血を見るとき、どうしても浮腫や体重に目が向きます。 もちろん重要です。 しかし、 浮腫がない=うっ血なし 体重が増えていない=うっ血なし

ではありません。

肺うっ血が中心なら下腿浮腫が目立たないことがありますし、体液再分布が主体なら短期間に大きな体重増加がなくても呼吸困難が悪化することがあります。 反対に、慢性的な浮腫や心拡大が残っていても、現在は安定している患者もいます。

だからこそ、一つの所見だけで「うっ血あり・なし」を決めないことが大切です。 基礎編①と②をつなげると 前回は、 心臓そのものを見る 回でした。 EF

HFrEF

HFmrEF

HFpEF

HFimpEF

心拡大

です。 今回は、その次に、血液が心臓の手前側にたまり、圧が高くなっていないかを見る回です。

例えば、EF 30%のHFrEFでも、利尿が進んで現在うっ血が落ち着いている患者はいます。 反対に、EF 60%のHFpEFでも、肺うっ血が強く、起坐呼吸や強い息切れを呈している患者はいます。

つまり、 EFは「どんな心機能・病型か」

うっ血は「今、血液や体液がどこにたまり、圧が高くなっているか」

を見る別の軸です。

まとめ:うっ血は「どこに、どうたまっているか」で考える

うっ血は、心臓の手前側に血液がたまり、圧が高くなった結果、その影響が肺や全身静脈に現れている状態です。

左心系なら、 肺うっ血 として、 息切れ 起坐呼吸 肺ラ音 肺水腫 などが出ます。 右心系なら、 体うっ血 として、 浮腫 頸静脈怒張 腹水 体重増加 などが出ます。

うっ血を見るときには、

呼吸困難・起坐呼吸 肺ラ音・浮腫・頸静脈怒張

胸部X線の肺うっ血・胸水

心エコーのIVCなど 体重・尿量・IN/OUT BNP/NT-proBNPなどの推移 を重ねて考えます。 大切なのは、 浮腫だけを見ない。 体重だけを見ない。 IVCだけを見ない。 BNPだけを見ない。 ということです。

基礎編①でEFや心拡大という心臓そのものの情報を見て、基礎編②でその手前側に何が起きているのかを見る。 ここまでつながると、呼吸、浮腫、胸部X線、IVC、体重、BNP、IN/OUTといった情報が、バラバラではなく、「うっ血」という一つの病態として見えやすくなります。

そして次の基礎編③では、もう一つの大きな問題である、 「前へ十分に血液を送れない」低心拍出・組織低灌流とは何か を、血圧、脈圧、末梢冷感、尿量、運動時反応などから整理してみたいと思います。

参考文献

日本循環器学会/日本心不全学会.2025年改訂版 心不全診療ガイドライン.
肺うっ血、体うっ血、身体所見、胸部X線、BNP/NT-proBNP、心エコー、体液再分布などについて参照しました。
Kitai T, Kohsaka S, Kato T, et al. JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure. Circ J. 2025.
注意点
本記事は、リハビリ職が心不全患者の「うっ血」を理解するための基礎知識を整理したものであり、独自に心不全を診断することを目的としたものではありません。
浮腫、体重、IVC、BNP/NT-proBNP、胸部X線などはいずれも単独ではうっ血の有無や程度を確定できません。
また、急激な呼吸困難、酸素化悪化、意識状態変化などがある場合には、積極的な運動負荷を進めるのではなく、速やかに医師・看護師などと状態を共有する必要があります。
実際の臨床では、症状、身体所見、画像、検査値、体重・尿量などの推移、治療経過を総合して判断する必要があります。
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ぴっちPT×AI|パパ理学療法士の「臨床やAI自動化の困り…
【臨床10年超|認定理学療法士|修士】
「明日から迷わない臨床」をテーマに脳卒中・整形・難病・考え方を発信
AI自動化やホームラボは、試行錯誤しながら解決した過程ごと記録
Kindle・医療小説・その他サイト制作や子育ても
急性期病院で働きながら、楽しく生きるパパ理学療法士です


免責事項:本記事は理学療法士など医療従事者の学習を目的とした一般的な情報です。個別患者の診断・治療・運動療法の可否を決定するものではありません。実際の臨床では、主治医の指示、施設基準、最新の診療ガイドライン、患者ごとの症状・検査所見を優先してください。

元記事をWordPress向けに再構成・加筆しています。元note記事:【心不全基礎②】「うっ血」って何?――肺うっ血・浮腫・胸水・IVCから心不全を考える

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