④【高次脳】CCAS見落としてませんか?小脳・視床リハの落とし穴

CCASと小脳・視床リハのサムネイル PT臨床

【今回のテーマ】 小脳や視床の疾患において見逃されがちな「CCAS(小脳性認知情動症候群)」について。患者さんの感情の変化や認知機能の低下を「性格」で片付けず、脳のネットワーク障害として捉え、多職種連携とリハビリに活かす視点を学びます。

※この記事は高次脳姿勢定位シリーズの各論です。全体を理解したい方は導入編から読むと理解が深まります。導入編はこちら①【高次脳】脳画像:「どこが壊れたか」ではなく「どう繋がらなくなったか」で考える

​【免責事項】 ※本記事に掲載されている内容は、執筆者個人の臨床経験および一般的な医学的知見に基づいた共有であり、特定の治療結果を保証するものではありません。実際の臨床においては、必ず主治医の指示に従い、多職種と連携しながら、ご自身の責任で判断・実施してください。本記事の利用により生じたトラブルや損害について、執筆者は一切の責任を負いかねます。 ※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。

【高次脳・姿勢定位シリーズ】小脳・視床疾患の罠:その「性格の変化」は脳が発するSOSかもしれない

前回は、半側空間無視(USN)を真正面から突破するのではなく、上手く躱して廃用を防ぐ誘導術についてお伝えしました。(前回の内容を軽くおさらいしたい方は [▶ 前回の記事へ戻る] からどうぞ) 今回は、小脳や視床のイメージを根底から覆す、見落とし厳禁の病態「CCAS」について深掘りします。

はじめに:その「怒り」は本当に性格ですか?

臨床に立って10年超になります。私自身、現在2人の子供を育て、12月に3人目の誕生を控える父親として、日々の生活でも「感情のコントロール」や「認知のゆがみ」について考えさせられる場面が多くあります。 臨床現場でも、「視床出血だから感覚障害と麻痺を診よう」「小脳梗塞だから失調の評価をしよう」と介入している最中に、なぜか言葉がスムーズに出なかったり(換語困難)、急に怒りっぽくなったりする患者さんに立ち会うことはありませんか?

「もともとの性格かな?」「認知症があるのかな?」で片付けてしまいがちなその症状、実は小脳と視床の深い繋がりからくる高次脳機能障害かもしれません。

1.私の失敗談:その「怒り」を性格のせいにしてしまった

若手の指導をしていた時のことです。視床出血の患者さんを担当していた後輩が、私にこう相談してきました。

「感覚は比較的保たれているのですが、体幹の機能が低く、なかなか離床が進みません。それに……なんだか最近、急に怒りっぽくなってしまって、リハビリが進みにくいんです」

私は「視床だから体幹機能も落ちるよね。性格の変化は病識の欠如や環境の変化のせいかもしれないから、根気強く関わろう」と、ありきたりなアドバイスをしてしまいました。

しかし、症例報告の場で先輩から飛んできたのは意外な言葉でした。 「歩容がワイドベースだし、この語彙の少なさ……視床小脳ループの障害による『CCAS』じゃない?」

CCAS(小脳性認知情動症候群)。当時の私には聞き馴染みのない言葉でした。知識がなかったために、患者さんの変化を「性格」という言葉で思考停止させていたことに、強いショックを受けたのを覚えています。

2.CCAS(小脳性認知情動症候群)とは何か?

小脳は、運動の調節(失調)を司るだけではありません。大脳皮質と「視床」を介して密接にネットワークを形成しており、実行機能、言語、空間認知、感情の調節にも深く関わっています。

小脳や、その中継地点である視床が損傷されると、以下のような症状が出ることがあります。

  • 実行機能障害: 計画を立てる、物事を順序立てて行うことが難しくなる。

  • 言語障害: 失語症に似た換語困難(言葉がパッと出ない)や、文法の誤り。

  • 空間認知障害: 視空間的な把握が崩れる。

  • 情動・人格の変化: 感情の抑制が効かなくなる(怒りっぽくなる)、または逆に無気力になる。

なぜ「視床」でも起こるのか? 小脳から大脳へ向かう信号は、必ず「視床」を通過します(視床小脳ループ)。そのため、損傷部位が視床であっても、このネットワークが遮断されれば、小脳由来の高次脳機能障害(CCAS)が出現するのです。

CCAS記事内画像

3.「性格」で片付けるか、「リハ」で挑むか

臨床において、この知識があるかないかで、患者さんへの関わり方は180度変わります。

  • 知識がない場合: 「怒りっぽい性格だから仕方ない」「認知症だろう」と諦め、適切な介入が行われない。

  • 知識がある場合: 「これは高次脳機能障害(CCAS)だ」と認識し、リハビリ専門職として改善の手立てを考えられる。

私たちができること もしCCASを疑ったら、まずはOTやST、そして病棟看護師と情報を共有することが重要です。 「性格ではなく、脳のネットワーク障害による症状です」と説明し、対応を統一(静かな環境でのリハビリ、指示を簡潔にするなど)するだけで、患者さんのパニックや怒りを防ぎ、リハビリの効率を劇的に上げることができます。

まとめ

「小脳だから高次脳はない」「視床だから感覚だけ診ればいい」という思い込みを一度捨ててみてください。 目の前の患者さんの「歩き方」と「言葉の出にくさ」、連鎖する「感情の変化」が繋がったとき、あなたの臨床解像度は一段階上がります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回は、多くのセラピストが頭を悩ませる「[▶ 【脳卒中シリーズ】Pusher現象への介入:方向性と具体的な対処法]」についてお届けします。ぜひ続けてご覧ください。

次回記事はこちら:⑤【姿勢定位】Pusherを介入で増強させてない?「能動的」重心移動のススメ

前回記事はこちら:​③【高次脳】半側空間無視に真正面から戦っていませんか?運動療法を優先させる方法

また、高次脳の知識を脳卒中一般の知識に応用したい方には、以下の関連マガジンもおすすめです。
・[▶ 【脳卒中病態シリーズ】病型ごとのリスク管理]
・[▶ 【脳卒中歩行再建シリーズ】脳卒中片麻痺者への歩行再建:装具療法を中心に]

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