④【大腿骨】屈曲ROM拡大はストレッチだけしてちゃ変わらない。「骨」レベルで見てみよう

④【大腿骨】屈曲ROM拡大はストレッチだけしてちゃ変わらない。「骨」レベルで見てみよう PT臨床

​【今回のテーマ:筋ストレッチに頼らない、骨盤連動と頸部軸の活用】

​はじめに:なぜ「曲がりにくい」のかを整理する

​手術後の患者さんにとって、股関節を曲げる(屈曲)動きは、起き上がりや座り込み、靴下を履くといった日常生活に欠かせない動作です。しかし、術後早期は痛みや腫れによって、この動きが大きく制限されます。

​無理に押し込むのではなく、なぜ止まっているのかを「骨のレベル」で紐解いてみましょう。屈曲を妨げる要因は、主に以下の2つの視点から整理できます。

​免責事項

​※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。

※個別の事例は考慮しておりませんので、実際のアプローチに際しては、必ず主治医や所属施設の専門医の指示を確認してください。

※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。

​1. 骨盤の柔軟性が「股関節」を助ける

​股関節を深く曲げていく際、実は股関節単体では80度〜90度あたりで限界を迎えます。それ以上の深さは、「骨盤が後ろに倒れる(後傾)」という動きがセットになって初めて達成されるのです。

​もし、腰まわりや太もも裏の筋肉(ハムストリングスや大殿筋)がガチガチに固まっていると、骨盤が動けず、股関節の動きをロックしてしまいます。

​アプローチの優先順位: 股関節だけを動かそうとするのではなく、腰背部や殿部の筋肉を優しくほぐし、骨盤がスムーズに後傾できる「余裕」を作ってあげることが先決です。

​評価のコツ: 片足ずつ曲げるよりも、両足を同時に軽く曲げる方が骨盤は後傾しやすくなります。一度、両側同時に動かしてみて、骨盤の連動を引き出してから片側の可動域を確認するのも非常に有効です。

​2. 見た目の「まっすぐ」と、骨の「まっすぐ」は違う

​体表から見て太ももを「まっすぐ」お腹に近づけようとすると、実は大腿骨の頭(骨頭)が受け皿(臼蓋)の縁にぶつかりやすくなります。大腿骨には「頸部」という斜めの軸があるからです。

​この頸部軸を無視して曲げると、手術で傷ついた組織を挟み込んでしまい、強い痛みを生じさせます。

​誘導のコツ:

「わずかに行儀悪く、外側に開きながら曲げる」イメージ。

​専門的な視点: 軽度外転・外旋を伴う屈曲ですが、この頸部軸に合わせた軌道を通ることで、骨同士の衝突(インピンジメント)を避け、より深い角度までスムーズに誘導できるようになります。

骨盤の傾きも考える:

背臥位では健側股・膝が伸展していると骨盤が腸腰筋に引っ張られ前傾しています。その状態で患側だけ屈曲させようとすると骨盤により張力が発生し患者さんは無意識に、防御的に可動域を止めてしまいます。
この防御的反応を止めるため、反対側の膝を立てる・反対側下肢の下にクッションを入れるなどをし、少しずつ健側膝伸展位でも屈曲できるよう段階的にROM拡大を図ります。

このように単純にストレッチを行うのではなく、どこに何が付着し、同位置するからこう動かす、と考えたROMexが大切と考えます。

​おわりに:手の感覚を研ぎ澄ます

​可動域の改善は、力ずくで行うものではありません。

「骨が今、どちらに行きたがっているか」「どこで筋肉がブレーキをかけているか」を、手のひらを通じて読み取ること。

​まずは骨盤の連動と、頸部軸に沿った誘導。この2点を意識するだけで、術後の股関節は驚くほど優しく、深く動いてくれるようになります。

​■ 次回予告

次回は、多くの若手を悩ませるあの「痛み」の正体。「大腿骨近位部骨折術後リハシリーズ⑤:『挟み込み』を防ぎ、鼠径部(そけいぶ)の痛みを取り除く」について解説します。

​👉 [次回の記事はこちら]

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