【今回のテーマ:セラピストの手で安定感を作る、患側股関節の具体的な介助と訓練法】
免責事項
※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。
※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。
※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。
はじめに:「足が着けない」本当の理由
手術後の患者さんが歩き出せない最大の理由は、筋力の低下だけではありません。体重をかけた瞬間に走る「痛み」と、それによって腰が引けてしまう「崩れ」への恐怖心です。
特に、足をついた瞬間に股関節が内側にガクッと折れてしまう(跛行:はこう)現象は、患者さんの歩行意欲を大きく削いでしまいます。今回は、この「崩れ」をどう支え、自立へ繋げるかについてお話しします。
1. セラピストの手掌(てのひら)を「筋肉の代わり」にする
股関節を外側から支える「中殿筋(ちゅうでんきん)」は、手術のダメージを最も受けやすい場所の一つです。ここが機能しないなら、リハビリの初期段階では「セラピストの手」がその役割を代行すればよいのです。
ホールド: 患者さんの股関節の外側(大転子から骨盤にかけて)を、セラピストの手で包み込むようにホールドします。
圧迫: そのまま、骨を内側に押し当てるようにグッと圧をかけ続けます。
固定: 反対側の手で骨盤を支え、体が流れないように固定します。
「私が外側からしっかり支えていますから、ゆっくり体重を乗せてみてください」
そう声をかけながら、手で股関節の「安定感」を作ってあげる。すると、それまで痛くて崩れていた足が、驚くほどしっかりと地面を捉えられるようになります。
2. 「段差」を使った戦略的なトレーニング:中殿筋の本当の役割
筋力を戻す際、寝たまま足を横に広げる運動(側臥位の外転)も悪くはありませんが、歩行に直結するのは「立った姿勢での骨盤のコントロール」です。
おすすめは、わずか5cmほどの段差に患側の足を乗せた状態での練習です。
「高い方の足に体重を乗せたまま、反対側の骨盤をグッと持ち上げてみてください」
この練習によって、中殿筋が「体重を支えながら骨盤を水平に保つ」という、歩行に最も必要な働きを思い出してくれます。
3. 「成功体験」を歩行のリズムに変える
まずは平行棒や歩行器を使い、セラピストが手で股関節をサポートしながら、崩れのない綺麗な一歩を経験してもらいます。
「今、しっかり支えられていますね」という感覚を共有し、徐々に介助の手を緩めていく。「自分の足で支えられている」という実感は、どんな言葉よりも患者さんの背中を押してくれます。
おわりに:歩くことは、生きること
大腿骨近位部骨折のリハビリは、単に関節を動かし、筋肉を鍛えるだけのことではありません。一度失いかけた「歩ける自分」を、丁寧に取り戻していくプロセスです。
組織を理解し、
痛みのない軌道を探り、
セラピストの手で安心を届ける。
この連載で紹介したステップが、目の前の患者さんの「次の一歩」を考えるヒントになれば幸いです。全7回、お付き合いいただきありがとうございました!
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