【今回のテーマ】 希少疾患であるシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)における、代償手段としての装具療法について深掘りします。膝折れの原因を「足部からの運動連鎖」から紐解き、患者さんの生活環境(靴を脱ぐ日本の文化)に合わせた「足先」へのこだわりと臨床推論を学びます。
※このシリーズは導入編から読んだ方が理解が深まります。導入はこちら①【神経難病】「進行性だから」と諦める前に読むリハの話|“治す”から“守る”への転換
【免責事項】 ※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。金融商品、物品についての記載があってもそれらの使用を推奨するというのはあくまで個人の見解であることを明記します。それによって生じたいかなる問題も責任を取りかねます。 ※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。 ※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。
前回は、進行性核上性麻痺(PSP)の独特な歩行障害と、精神症状・環境調整へのアプローチについてお伝えしました。(※前回の内容を軽くおさらいしたい方は [▶ 前回の記事へ戻る] からどうぞ) 今回は、希少疾患であるシャルコー・マリー・トゥース病(以下、CMT)に対し、経験年数の浅いセラピストがどう向き合うべきか。教科書的な知識をいかに個別性に落とし込むかを共有します。
はじめに:臨床の「手札」を増やすために
私自身、現在2人の子供を育て、もうすぐ3人目の誕生を控える親として、家の中を裸足で歩き回る子供たちの安全を考えるとき、ふと「靴を履かない環境」でのリスクに思い至ります。本記事では、単に機能を「治す」のではなく、残された機能を最大限に活かす「代償手段」としての装具療法について深掘りします。
1.CMTの病態理解:ガイドラインに基づく基礎知識
介入の前提として、CMTの病態を整理します。
-
進行性の末梢神経障害: 成人以降も緩徐に進行する遠位筋優位の筋萎縮と感覚障害を特徴とします。
-
不可逆的な経過: 神経変性自体は不可逆的ですが、直接的に生命予後に影響を及ぼすことは稀です。
-
代償的介入の重要性: 根本的な治療法が未確立である現状において、運動療法による筋力維持と、装具療法による生活の質(QOL)の維持がリハビリテーションの核となります。
2.臨床推論:膝折れのメカニズムをアライメントから紐解く
若手が陥りやすい解釈は「膝折れ=大腿四頭筋の筋力低下」ですが、私の担当したCMT症例(壮年期男性)の近位筋力は良好でした。
-
アライメント不全の影響: 足部の凹足(ハイアーチ)変形に伴い、荷重応答期に下腿が外側へ傾斜(ラテラルスラスト)する現象を認めました。
-
運動連鎖の分析: この側方不安定性が支持基底面を偏位させ、結果として膝関節の支持性を損なわせていると分析しました。つまり、膝の問題ではなく「足部からの運動連鎖」による膝折れと捉えることが重要です。
3.環境因子を考慮した「足先」へのこだわり
本症例の装具選定において、最も重要なのは「実際の生活環境」への配慮でした。
-
屋内での活動スタイル: 日本の生活様式を考えると、靴を履いた場面のみならず、屋内などの「靴を脱ぐ場面」でも使える必要がありました。
-
足趾への着眼: 足関節だけでなく、足趾の運動機能低下も顕著でした。靴による保護がない環境では、足趾の下垂が直接的な引っ掛かりや転倒のリスクとなります。
-
工夫の核心: 通常の設計を超え、底板を足趾先まで延長しました。これにより足関節と足趾双方の底屈を制動し、靴を脱いだ環境下でも安全なクリアランスを確保する設計としました。
【最後に】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 疾患名で患者さんを診るのではなく、その人の「生活環境」と「動作の力学」を診ること。特に進行性疾患においては、過度な期待を煽るのではなく、丁寧な観察に基づいた「確実な代償手段」を提案できることこそが、専門職としての誠実さだと考えています。
これで「神経難病シリーズ」は完結となります。全6回を通し、進行性疾患へのマインドセットから、具体的な疾患(PD、PSP、CMT)の評価と介入までをお伝えしてきました。 もう一度最初から復習したい方や、一覧で確認したい方は、以下のリンクをご活用ください。


コメント