【今回のテーマ:患者さんの防御収縮を和らげ、二人三脚で可動域を「掠め取る」ための戦略】
※このシリーズは①から読むと理解しやすいです。①【膝関節】OAの痛みを軟骨のすり減りと説明してない?患者さんに不利益を与えない「組織」の話
免責事項
※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。
※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。本記事の情報を用いたことにより生じた不利益や損害について、筆者は一切の責任を負いかねます。
はじめに:「任せられる」と思える環境をいかに作るか
前回は「筋の粘弾性」に着目しましたが、今回はそれを引き出すための「セラピストの身体の使い方」や「姿勢ごとの戦略」について、私が試行錯誤してきた内容を共有します。
新人時代、私は力任せに曲げようとして患者さんを防御収縮させてばかりでした。大切なのは、患者さんが「これなら任せられる」と思えるような、安定した環境をいかに作るかだと考えています。
介入前の一番大切な確認
TKA術後の可動域練習においては、主治医の指示および手術記録(術中可動域)を必ず確認するようにしています。人工関節の構造的限界を超えて曲げようとすると、破損やトラブルを招く恐れがあるためです。100度を超える介入が必要な際は、事前に主治医へ確認しておくのが、重要なリスク管理だと感じています。
1. 座位:セラピストの「足」を活用して安定を探る
座位での練習では、患者さんの足が床につかない程度の高い台に座ってもらう方法をよく用います。
セッティングの工夫: セラピストは前に低めの椅子で座り、自分の片脚を患者さんの大腿の下に入れます。反対の足で、患者さんのアキレス腱付近を後ろから支えます。
意図: 「大腿も下腿も支えられている」という安心感が、防御収縮を和らげるきっかけになります。また、セラピストの両手がフリーになるため、丁寧な介入が可能になります。
応用: 足の力でゆっくり屈曲を促すと、手よりも微細なコントロールが利き、限界ラインを慎重に探れる場合があります。
2. 腹臥位・背臥位:重力と後面組織対策
腹臥位: 下腿三頭筋の起始部を圧迫したまま足関節の底背屈を促すなど、膝裏(後面組織)をじっくり紐解く際に選択します。
背臥位: SLR(下肢挙上)のポジションからモビライゼーションを併用して曲げていくルートは、膝立てが難しい症例において有効な選択肢の一つです。
3. 神経生理学的な反応と「意識の共有」
物理的な操作だけでなく、神経的な反応(PIR:等尺性収縮後弛緩など)を交える工夫をしています。可動域の限界付近で軽く「曲げる」または「伸ばす」力を入れてもらうことで、筋緊張を効率よく落とせる可能性があります。
そして何より、「言語化による安心」が不可欠です。「今、ここが硬いので、この角度で動かしますね」と逐一伝えることで、恐怖心からくる防御収縮を防ぎます。
4.患者さんを「攻略のパートナー」として認識する
膝の可動域改善は、リハビリの時間だけで完結するものではないと考えています。リハの時間外も含めた日常生活の全てを使って、少しずつ、確実に可動域を「掠め取っていく」イメージを共有するようにしています。
「宿題」として押し付けるのではなく、「私たちが会っていない時間も、この硬い組織を24時間体制で一緒に攻略し続けましょう」というスタンス。
この「攻略のパートナー」としての共通認識こそが、停滞していた角度をこじ開ける大きな力になると信じています。
【おわりに:膝の知識を「脳卒中リハ」へ繋げる】
ここまで「膝関節リハの再定義」として、局所的な構造や機能解剖を整理してきました。
しかし、臨床で「膝」を語る上で避けて通れないのが、脳卒中片麻痺における「ニーバックル(膝折れ)」や「バックニー(反張膝)」の問題です。
なぜ荷重応答期に膝が崩れるのか? なぜ立脚中期に膝がロックしてしまうのか?
局所の機能解剖を知ったあなたなら、その答えは「脳卒中という全体像」の中に、より深く見つかるはずです。
具体的な介入のアイデアについては、こちらのシリーズで詳しく解説しています。
・[▶ 【脳卒中シリーズ】歩行再建:長下肢装具を中心に]
また、他にも臨床でよくあう神経難病への関わり方や、高齢者の骨折などについてさらに深く学びたい方には、以下の関連マガジンもおすすめです。
・[▶ 【神経難病シリーズ】パーキンソン病の評価とリハビリのコツ]
・[▶ 【整形外科シリーズ】大腿骨近位部骨折の理学療法]
このテーマをもう少し広げて読みたい方へ
この記事の内容を実際の場面へつなげるときは、次のような判断で迷いやすくなります。
- 患者さんと自分の位置をどう決めるか
- 手を当てる場所で何が変わるか
- 道具を使う場面と使わない場面をどう分けるか
関連する具体例や、別の場面での考え方は、note・Kindle・ツールにも整理しています。


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