【今回のテーマ】足底感覚入力の有効性が叫ばれるLP(側方突進現象)ですが、急性期においてその方法論に疑問を感じる場面が多くあります。今回は、私が実際に行って有効と感じたメニューを紹介しています。
※この記事は高次脳姿勢定位シリーズの各論です。全体を理解したい方は導入編から読むと理解が深まります。導入編はこちら①【高次脳】脳画像:「どこが壊れたか」ではなく「どう繋がらなくなったか」で考える。
免責事項
本記事の内容は筆者の臨床経験に基づく個人的な見解であり、所属組織の公式見解ではありません。実際の介入にあたっては、各施設のプロトコルや患者様の状態に合わせて、自己責任でご判断ください。
※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。
はじめに
臨床10年超、二児の父として慌ただしく過ごすパパPTです。
1. 失敗から学んだ「犯人探し」の視点と、エビデンスへの違和感
実は、ワレンベルグ症候群の症例は決して多くありません。私も初めて担当したのは臨床5年目の時でした。お恥ずかしい話ですが、当時は「これは失調かな?」と考え、それに基づいたアプローチを繰り返していました。
しかし、まるきり手応えがなかった。
「これは失調ではなく、延髄外側梗塞に伴うワレンベルグ症候群特有の姿勢定位障害(Lateropulsion:LP)だ」
その正体に気づいてから、私は教科書を開き、エビデンス的にLPに効くとされている「足底への体性感覚入力(硬度識別課題など)」を丁寧に試してみました。
ですが、正直に言えば……私の臨床では、ほとんど効果を実感できなかったのです。
もちろん、私の読み込みが足りなかっただけかもしれません。しかし、何例かの方に試していただくなかで、「そもそも、足の裏の硬さが判別できないことが問題の本質じゃないんじゃないか?」という思いが強くなりました。
教科書の「正論」を試したからこそ見えてきた、もっと直接的に「真っ直ぐ」を再学習するためのアプローチ。私が臨床で最も手応えを感じた戦略を共有します。
2. 戦略:現場で「武器」になった2つの引き出し
仕事復帰を急ぐ患者さんにとって、20分の介入枠は一分一秒が惜しいものです。そこで私が取った戦略は、「FBS(ファンクショナルバランススケール)を下位項目ごとに練習課題として分解する」という、極めて単純な方法でした。
引き出し①:側方の壁を使った「正中軸の再起動」
まずは「壁」を味方に付けます。傾く方と反対の壁です。
壁に肩を預ける: 傾く側の壁に肩をつけ、そこからゆっくりと離れる練習。
「攻め」の練習: 逆に、傾く側とは「反対側」の壁に肩をつける練習。これは症例にとって非常に難易度が高く、恐怖心も伴います。
パパPTのコツ: この時ばかりは、パパが子供の自転車の練習に付き添う時のように、「近位見守り(すぐ隣で支えられる距離)」で安心感を与えてください。この安心感があって初めて、脳は新しいバランスを学習し始めます。
引き出し②:FBS項目を「ひたすら反復」
FBSの評価項目は、実はそのまま「生活で必要なバランス能力」のトレーニングメニューになります。
振り向き動作: 左右への視線移動を伴う正中軸の回旋練習。
壁から離れる・近づく: 視覚に頼らず、体性感覚で自分の位置を捉え直す練習。
昇段・降段ステップ: 10cmの台を使い、足底からの荷重情報をひたすら反復します。歩き出しの一歩目のバランス調整に大きく役立ちます。
3. 驚きの即時効果と、その「持ちこし」
この「FBS下位項目の徹底反復」と「壁トレ」を繰り返した結果、驚くべきことが起きました。
介入の直後だけでなく、その効果が翌日のリハビリ開始時まで持続していたのです。3週間後、初期には22点だったFBSは、なんと54点(ほぼ満点!)まで改善。
「右に傾いて歩けない」と嘆いていた彼は、階段を上り下りし、不安定な板の上で目を閉じても立てるまでになりました。最後には、「しゃがみ込んで重いものを持ち上げる」という動作も、転倒のリスクなくこなせるようになったのです。
4. おわりに:つかまるものさえあれば、どこでも「リハ室」になる練習
この介入方法を通じて私が再確認したのは、「患者さんが自分で理解し、再現できる練習」の強さです。
FBSの項目や壁を使った練習は、つかまるものさえあれば病棟でも自宅でも可能です。「何をすれば良くなるか」が明確であれば、患者さんはリハビリの時間外にも自ら「自分の軸」を探し始めます。
二児の父として、忙しい朝に子供が「自分で着替えられた!」と喜ぶ姿を見る時、私はこの症例を思い出します。「自分で制御できる」という自信こそが、回復の最大のガソリンになります。
Lateropulsionに立ち向かうあなたへ。まずは、一番近くにある「壁」を使って、患者さんと一緒に「真ん中」を探す旅から始めてみませんか?
🏁 シリーズ完結のお知らせ
全8回にわたってお届けした「高次脳姿勢定位シリーズ」は、今回で完結です。最後までお読みいただきありがとうございました。この記事が、あなたの明日からの臨床を支える一助となれば幸いです。
高次脳の知識を脳卒中一般の知識に応用したい方には、以下の関連マガジンもおすすめです。
・[▶ 【脳卒中病態シリーズ】病型ごとのリスク管理]
・[▶ 【脳卒中歩行再建シリーズ】脳卒中片麻痺者への歩行再建:装具療法を中心に]
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