【今回のテーマ】 机上の検査が困難な患者さんの注意障害をどう評価するか。理学療法士の強みである「動作の観察」を客観的な点数に変え、多職種との共通言語を生み出す「BAAD(観察的注意障害評価尺度)」の活用法と、ベッドサイドでの具体的な評価ポイントを学びます。
※この記事は高次脳姿勢定位シリーズの各論です。全体を理解したい方は導入編から読むと理解が深まります。導入編はこちら①【高次脳】脳画像:「どこが壊れたか」ではなく「どう繋がらなくなったか」で考える
【免責事項】 ※本記事は、臨床11年目の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。金融商品、物品についての記載があってもそれらの使用を推奨するというのはあくまで個人の見解であることを明記します。それによって生じたいかなる問題も責任を取りかねます。 ※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。 ※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。
はじめに:あの日の転院申し送りでの後悔
今でこそリスク管理や多職種連携について発信していますが、若手の頃は苦い経験の連続でした。 ある日の転送申し送りの場。注意障害があると感じていたものの、机上の検査が困難だった患者さんについて、私はこう伝えてしまいました。 「注意障害があります。でも、OTさんからは『机上検査ができる状態じゃない』と言われていて、ある程度重症そうです」
数日後、転送先のセラピストから連絡がありました。
「申し送りありがとうございました。注意障害ですが、生活場面で見ると意外と工夫次第で動けそうな印象です。もし、具体的な『できる・できない』の境界線が現場と共有できていたら、もっと早くから自立度を上げられたかもしれませんね。良いケースだったので、今度また情報交換しましょう」
受話器を置いたあと、申し訳なさと恥ずかしさで胸が苦しくなりました。
相手が責めているわけではないからこそ、自分の「なんとなく」の評価が、いかに現場を迷わせていたかが身に沁みたのです。
理学療法士が欲しいのは、机の上の点数ではなく「動いている時の注意の低下」を説明する言葉です。その有用な評価ツールとなるのが、今回紹介する「BAAD(観察的注意障害評価尺度)」です。
1.なぜPTは注意障害を「なんとなく」で語ってしまうのか
私たち理学療法士にとって、注意障害は「転倒」に繋がりかねない懸念事項です。「ブレーキを忘れる」「歩行中に声をかけるとバランスを崩す」。これらは明らかに注意の問題ですが、急性期や認知機能低下がある方には、TMTやCATなどの机上検査はハードルが高いことも多いです。
「検査ができないから、評価は保留」
具体的な対応方針を共有できないまま、自立度の判断が先送りになることがあります。
この評価の遅れを防ぐのが、BAADという視点です。
2.観察的注意障害評価尺度「BAAD」とは何か
BAAD(Behavioral Assessment of Attention Disorder)は、その名の通り「普段の行動」を観察して採点する評価尺度です。
最大の利点は、後から振り返って採点できることです。検査のために特別な時間を取る必要がなく、リハビリ介入を終えたあと、デスクに座って「今日の歩行訓練中、あの方はどうだったかな?」と思い返して採点できます。
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検査の拒否がある
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机に座り続けるのが難しい
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疲労しやすく、長時間の検査ができない
このような患者さんでも、訓練中の行動を一定の基準で整理し、観察所見を点数として共有できます。
3.BAADの評価項目と具体的な行動例
BAADは6項目から成ります。
1.活気がなく、ぼーっとしている
2.訓練中じっとしていられない、多動で落ち着きがない
3.訓練・動作に集中できず、容易にほかのものへ注意がそれる
4.動作のスピードが遅い
5.同じことを2回以上指摘される、または同じ誤りを2回以上犯す
6.動作の安全性への配慮が不足し、安全を確保できていないのに動作を開始する
各項目を問題行動の出現頻度により0〜3点で評価し、合計は0〜18点です。原則として、関わる場面を約1週間繰り返し観察して評価する形です。
BAADの0〜3点は「問題行動がどのくらいの頻度で見られたか」で評価します。
0点:全くみられない
1点:時にみられる(観察される頻度が1/2未満)
2点:しばしばみられる(観察される頻度が1/2以上)
3点:いつもみられる(毎回・ほぼ常にみられる)
例えば「注意が逸れる」という項目なら、
0点:訓練中に注意が逸れる様子はない
1点:たまに他の刺激へ注意が逸れるが、声かけで戻れる
2点:半分以上の場面で注意が逸れ、介入が必要
3点:ほぼ毎回注意が逸れ、訓練の継続が困難
というイメージです。
4.スコアの解釈と目安
BAADは各項目0点〜3点で採点し、合計18点満点で評価します。点数が高いほど、注意障害が重いことを示します。
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軽度(合計0〜4点): 概ね日常生活は自立可能ですが、人混みや複雑な場面では注意のミスが出る可能性があります。
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中等度(合計5〜12点): 部分的な見守りが必要なことが多いです。静かな環境でのリハビリを推奨し、病棟でも環境調整(ナースステーションに近い静かな部屋など)を検討する基準になります。
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重度(合計13点以上): 常時監視・介助が必要な状態が多いです。一瞬の隙に事故が起きるリスクが非常に高く、病棟スタッフとの緊密な連携が不可欠な段階です。
5.BAADを「共通言語」として活用するメリット
「注意障害があります」と伝えるのと、「BAADで10点でした。特に、周囲の刺激に注意がそれることと、安全確認前に動作を始めることが目立ちます」と伝えるのでは、看護師さんの対応が変わります。
また、自立判断の根拠としても有用です。「前回は15点だったが、今は6点まで改善した」という数値があれば、自信を持って「見守り歩行」へと進めることができます。
【最後に】 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
3人の子供の育児と家事に追われる日々の中で、私も「とりあえず今日のリハビリをこなす」ことで精一杯になる瞬間があります。でも、あの日「とにかく変なんです」としか言えなかった自分を思い出すたび、専門的な評価の大切さを痛感します。
机上の検査ができないことは、評価を諦める理由にはなりません。「リハビリ中の動きを見る」という、理学療法士が最も得意とする仕事に、BAADという評価尺度を組み合わせる。それだけで、申し送りは「根拠ある報告」へと進化し、そこからどう対処するかという具体的な方針立てが始まります。
次回は注意障害でも運動療法の妨げとなるあの症状について書いていきます。ぜひ続けてお読みください。
次回記事はこちら:③【高次脳】半側空間無視に真正面から戦っていませんか?運動療法を優先させる方法
前回記事はこちら:①【高次脳】脳画像:「どこが壊れたか」ではなく「どう繋がらなくなったか」で考える
この「高次脳姿勢定位シリーズ」を最初から順に学びたい方は、以下のリンクをご活用ください。 ・[▶ このシリーズの記事一覧はこちら]
また、リスク管理の知識を具体的な疾患に応用したい方には、以下の関連マガジンもおすすめです。
・[▶ 【脳卒中病態シリーズ】病型ごとのリスク管理]
・[▶ 【脳卒中歩行再建シリーズ】脳卒中片麻痺者への歩行再建:装具療法を中心に]
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このテーマをもう少し広げて読みたい方へ
この記事の内容を実際の場面へつなげるときは、次のような判断で迷いやすくなります。
- 机上検査が難しい人をどう観察するか
- 生活場面の注意障害をどう記録するか
- 観察結果を自立判断へどうつなげるか
関連する具体例や、別の場面での考え方は、note・Kindle・ツールにも整理しています。


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