④【膝関節】そのパテラセッティング、機能的ですか?伸展ラグを埋める戦略

膝関節のパテラセッティングと伸展ラグの記事サムネイル PT臨床

​このシリーズは①から読むと理解しやすいです。①【膝関節】OAの痛みを軟骨のすり減りと説明してない?患者さんに不利益を与えない「組織」の話

免責事項

​※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。

※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。本記事の情報を用いたことにより生じた不利益や損害について、筆者は一切の責任を負いかねます。

※本シリーズは、園部俊晴先生、山田英二先生、橋本貴幸先生らの知見を土台とし、私自身の現場での実感をもとに構成しています。

はじめに:ROMが広がった後の「壁」をどう越えるか

「お皿周りも柔らかくなった。膝裏の突っ張りも取れた。でも、歩くと膝がガクッと抜ける感じがする……階段昇降でなめらかに膝を使えない」

​リハビリの最終段階で、そんな壁にぶつかったことはありませんか? 可動域(ROM)が広がっても、それを維持し、生活の中で使いこなすための「支持性」が伴わなければ、リハビリは完結しません。

​今回は、伸展最終域で力が入らない「ラグ(Lag)」の正体と、それを埋めて「しっかり支えられる足」を作るための統合的なアプローチを解説します。

​1. 伸展ラグ(Extension Lag)の正体

​他動的には膝が伸びるのに、自分の力(自動)では最後まで伸ばしきれない状態。この原因は、単なる筋力不足だけではありません

​「遊び」と「出力」の不一致: これまで解説してきた脂肪体や皮膚の滑走性が悪いと、大腿骨-膝蓋骨-脛骨-腓骨という骨の動きに異常が出ます。こうなると筋肉は効率よく働けません。

​内側広筋の重要性: 伸展の最終数度を司る内側広筋は、炎症や腫脹で最も早期に萎縮し、回復が遅れやすい部位です。

「防御性」の制限: 痛みや防御性収縮が残っていると、脳が「これ以上伸ばすと危ない」とリミッターをかけ、出力を抑制してしまいます。

​2. 実戦! ラグを埋める出力トレーニング

​組織の滑走性を引き出した直後に、以下の手順で「正しい収縮」を脳と体に学習させます。

​四頭筋セッティングの質を高める

①膝蓋骨の動き

​単に力を入れるだけでなく、「膝蓋骨がしっかり上方に引き込まれているか」を患者さんと一緒に確認します。

​タオルを膝裏に置き、「大腿骨でタオルを押し潰す」フィードバックを与えることで、広筋群の動員を促します。

②脛骨の外旋を止める

セッティングの際、大腿骨に対し膝蓋骨や脛骨が外を向いている場合、セラピストや患者さん自身の手で大腿を外、脛骨を内の「絞る」様に誘導しながらセッティングをします。

手が滑ってしまう方にはダイソーなどで売っている百円の園芸手袋なんかもオススメです。

伸展ラグとパテラセッティングの解説図

膝蓋骨の可動性低下、脛骨の外旋という異常な副運動は、多くの膝OA患者さんでは長年の習慣となっており修正が難しいことが多いですが、それでも放置するより多少なりとも修正しようとしておくだけでも可動域やラグの軽減につながることは多いです。

完全に正常にする、というよりは異常なパターンがあり、それを日々少しずつ修正するよう意識づけることを介入中の目標としています。

ストレッチの積み重ねで徐々に可動域を増やす場合があるように、異常な運動パターンの修正も積み重ねが大切です。

SSE(ステップエクササイズ)による立位への統合:

非荷重での収縮ができたら、次は「体重を支える」環境へ。一歩踏み出した姿勢で、後ろ足の膝をしっかり伸ばします。

​セラピストが徒手的に伸展をアシストし、「荷重下での伸展感」を脳に覚え込ませるのがコツです。

膝の後ろにボールを入れる、ゴムバンドで抵抗をかける、など患者さんにとってわかりやすい感覚を入力してから自主トレへと移行させることが大切です。

臥位でのセッティングをやっている人は多いですが、これを立位で行う、さらにはそれを使って前においた段差(5cm程度)に上る、段差の上でやって遠心的に降りる、など歩行へ汎化させる練習を挟まないとその「強化した四頭筋」を有効に活用させることはできません。

ステッパーなんかも疑似的に段差昇降を経験できるため代償に注意して使用すればいい練習器具になります。
※参考;​【物品】ステッパー:脳卒中片麻痺のバックニーや負荷量選定の一つに

​3. 総括:膝リハビリの「3つの柱」

​この連載を通じてお伝えしたかったのは、膝のリハビリは「筋トレ」という一つのピースだけでは完成しないということです。

​組織の滑走性(第1・2回): 脂肪体や皮膚、滑膜が自由に動けるスペースを確保する。

​連動性と心理(第3回): 股関節や骨盤からの影響を考慮し、防御性収縮(脳のブレーキ)を解く。

​支持性の統合(第4回): 整った構造の上で、正しい筋出力を再構築し、生活動作に繋げる。

おわりに:子供の成長のように、一歩ずつ。

2人の子供が初めて立ち上がり、おぼつかない足取りで歩き出すのを見守っていた時、私は「筋トレしろ」とは思いませんでした(笑)。ただ、彼らが「怖がらずに、自分の足で立てる」ように、優しく支えるだけでした。

​臨床も同じです。組織の声を聞き、痛みを取り除き、最後は「自分の足で支える喜び」を患者さんと共有する。そのプロセスの一つひとつに、理学療法士としての専門性と、人としての優しさが宿るのだと信じています。

​■ 次回予告

さて、ここまで膝の「痛み」や「支え」についてお話ししてきましたが、追記として、現場で最も苦労するのは「ガチガチに固まった膝をどう曲げるか」ではないでしょうか。

​次回からは、私が臨床で試行錯誤してたどり着いた、強引に曲げないためのアイデアを提示していきます。まずは組織の物理的な特性である「粘弾性」に着目し、いかに効率よく、かつ愛護的に可動域を引き出すか。そのヒントをお伝えします。

​次回の記事はこちら:​⑤【膝関節】ガチガチに固まった膝をどうしていいかわからない!?筋の「粘弾性」への着目

前回記事はこちら:③​【膝関節】膝の内側の痛み、膝だけ見てませんか?鵞足と骨盤

​この「膝関節シリーズ」を最初から順に、または一覧で確認したい方は、以下のリンクをご活用ください。

・[▶ このシリーズの記事一覧はこちら]

このテーマをもう少し広げて読みたい方へ

この記事の内容を実際の場面へつなげるときは、次のような判断で迷いやすくなります。

  • 伸展角度と伸展ラグをどう区別するか
  • パテラセッティングで代償をどう見抜くか
  • 荷重動作へどうつなげるか

関連する具体例や、別の場面での考え方は、note・Kindle・ツールにも整理しています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました