「AIを使ってみた」という記事は増えました。このシリーズはその手の話ではありません。自分の臨床思考をAIに再現させるために、設計から試行錯誤している記録です。
この記事は前回記事の続きです。前回はAIを使う、でなく、臨床思考過程を説明できるAIを作る方法に思い至ったところまででした。
はじめに:実際AI作り始めました!
新人指導で「で、何すればいいですか?」をカタチにしたいと思っている人が、ハマれるものを作りたい。
最初はGeminiの「Gem」で作り始めました。ただ、使っていくうちに回答がズレることが多く、途中でGPTsに乗り換えています。
ちょうどChatGPT有料版の無料オファーが残り3日で切れるタイミングだったので、とりあえず使い切るか、というのも正直なところです。
実際に両方触ってみた感覚としては、ChatGPTの方がズレた回答は少ない印象です。出力のクセはありますが、臨床的な文脈での精度という意味では、今のところ自分の使い方には合っていると感じています。あくまで個人の感覚ですが。
この記事は、その試行錯誤の記録です。
出発点:「新人が動けるようにする」
出発点はシンプルでした。新人が迷ったときに、「明日どう動けばいいか」まで具体的に返せるAIを作れないか。
臨床でよくあるのは、知識はある、でも判断に迷う、結果として動けない、という状態です。「血圧これで上げていいのか」「この麻痺の人、もう立たせていいのか」「装具、どう使えばいいのか」——この判断で止まる瞬間が一番多い。ここをAIで補えないか、というのが今回の出発点です。
余談:GPTsは本名が出る問題
ここは完全に想定外でした。GPTsを作って公開しようとすると、アカウントの表示名、つまり本名がそのまま出る仕様になっています。
臨床系の内容を扱う以上、所属と切り離したい、個人として発信したいという前提がある中で、これはハードルが高い。現時点では設定で完全にコントロールできる状態ではないため、一旦アカウントの本名をそのままAI名として、限定公開での試験運用にしています。知り合いや後輩に試してもらう段階、いわば院内勉強会の延長みたいな位置づけです。
この制約があるからこそ、まずは中身の精度を詰めるフェーズに集中しています。
最初に作ったもの:「正しいが使えない」
最初に作ったAIは、いわゆる優等生型でした。内容は間違っていない、説明も丁寧、一見すると分かりやすい。ただ、自分で回答を見ていて思ったのは「で、何をすればいいの?」ということです。
臨床10年以上の自分がそう感じるなら、新人はもっとそうなるはずです。説明は理解できるが、行動に繋がらない。臨床ではこれが致命的です。必要なのは知識ではなく、次に何をするかの判断だからです。
改善①:出力の型を固定する
ここでまずやったのが、出力の型を固定することです。結論(1行)、まずやること、やってはいけないこと、なぜそうするか——この形に統一すると、出力は明らかに変わりました。説明中心だったものが、「とりあえずこれやる」という行動レベルに落ちる。「読むもの」から「使うもの」に近づいた感覚があります。
次の問題:「知らないことも答える」
次に気になったのが、学習させていないテーマへの対応です。試しに脊髄損傷について聞いてみると、普通にそれっぽく答えてきます。GPTは「分からない」と言うより、それっぽく補完する性質がある。医療系ではこれがかなり危険です。
改善②〜④:「知らないなら止まる」設計
そこでプロンプトに制限を追加しました。知識にない内容は回答しない、推測で補完しない、一般論で埋めない。ただしこれだけでは止まりません。「分かりませんが、一般的には〜」と続いてしまう。
そこで発想を変えました。禁止するのではなく、「ここで終わる」構造にする。回答できない場合は1行で終了、それ以上は一切出力しない、というルールです。これでかなり改善しました。
それでも完全には止まらない場面がありました。原因はKindle書籍を丸ごと知識として入れていたことで、「直接じゃないけど関連はある」と判断してしまう。そこで疾患が明確に一致する場合のみ回答、類似疾患からの推測は禁止、という制限をさらに加えました。
分かりやすさがズレを生む
ここまで来ると、次の問題が出ます。分かりやすくしようとして、ズレる。「ラクナ=安定、心原性=不安定」という整理は一見分かりやすいですが、臨床では危険です。例えば血圧の扱い一つでも、病型で判断が変わるため、この単純化は現場では危険です。
そこで説明の仕方にも制限を入れました。一つの軸でまとめない、病態・症状・臨床判断の3点で分ける。これで「分かりやすいがズレない説明」に近づきます。
あえて未完成にする
ここまで整えると、今度は逆の問題が出ます。答えが完成されすぎる。読めば全部分かる、でも自分で考えなくなる。これでは教育として弱い。
そこで最後に入れたのが、途中で止めて最後は問いで終わる、という設計です。「今どのフェーズか」「血圧はどのくらい動いているか」「麻痺の程度はどのレベルか」——こうした問いを残すことで、考えながら使うAIになります。
現時点での形
今の試験運用中AIは、読者の一言から始まり、結論を短く提示し、行動に落とす。ただし全ては言わず、最後は問いで終わる。この構造です。
まだ完成ではありません。本名表示の問題もあるため、現時点では限定公開でのテスト段階です。
ただ一つはっきりしたのは、臨床で重要なのは「正解」ではなく「判断の順番」だということです。そして、その順番を言語化できれば、AIでもある程度は再現できる。
ここまでの試行錯誤でだいぶ形になってきました。
もう少し確認を重ねて、GW明けの出勤時、タイミングがあれば後輩に渡してみる予定です。
まずは精度の高いChatGPTで「本当に使えるか」を検証することが先で、そこで形になったらGemでも試してみる予定です。
Geminiは精度こそ今のところChatGPTに劣る印象ですが、無料で使える範囲が広い。
できあがったものを別のプラットフォームで動かしてみると、また違う課題が見えてくるかもしれません。
正直、このAIがどこまで使えるかはまだ分かりません。
ただ少なくとも、「新人が止まるポイント」を前に進めるところまでは見えてきました。
次は実際に後輩に使ってもらってどうなるか。
そこを見ながら、さらに詰めていきます。
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