【脳卒中病型】くも膜下出血患者――急性期で”慢性的な症状”と”危険な変化”の境界にどう対応するか

くも膜下出血急性期の症状変化とリスク管理 PT臨床

はじめに

急性期で働き始めた頃、脳卒中の中でも私は特に「くも膜下出血(SAH)」が怖いと感じていました。脳梗塞や脳出血と違い、「今この瞬間は落ち着いて見えるのに、急に再破裂するかもしれない」という独特の緊張感があったからです。

しかも若い患者さんほど、頭痛を我慢してしまう、「前からこんな感じです」と話される、表情が保たれている、会話も成立する、一見元気そうに見える、といったことが少なくありません。だからこそ逆に怖かったのです。
「この頭痛は慢性的なものなのか、それとも危険な変化なのか」——新人の頃、私はそこを全く自信を持って判断できませんでした。

何が難しいのか

若いSAH患者さんで特に難しかったのは、症状の「見え方」でした。
「頭痛は前からあります」「昔から偏頭痛持ちです」「昨日よりはマシです」「少し気持ち悪いだけです」——こういった訴えは日常的にあります。しかし実際には、再出血・水頭症・血管攣縮・頭蓋内圧上昇のいずれでも、頭痛・吐き気・倦怠感・ぼんやりする、といった症状は起こります。
つまり「いつもの症状」と「危険な変化」の境界が非常に曖昧です。これは今でも難しいと感じています。
結局、自分の中で行き着いたのは「慢性的な症状と危険な症状を完全に見分けるのは難しい」という前提でリスク管理する、という考え方でした。

SAHの基本整理

再出血が最大のリスク
SAHは多くの場合、脳動脈瘤の破裂によって脳表面のくも膜下腔に出血し、激しい頭痛・意識障害・嘔吐・項部硬直などを呈します。
重要なのは、出血した瞬間だけが危険ではないという点です。

発症後1か月以内の再出血率は未治療例では累積リスクが高く、文献によっては30%以上とされ、特に発症後24時間以内が最もリスクの高い時期です。

現在はクリッピング術やコイル塞栓術によって再出血リスクは大きく低下していますが、別部位への新たな動脈瘤形成や血管変化のリスクはゼロではありません。

脳血管攣縮(スパズム)
SAHのもう一つの特徴が、発症後数日〜2週間程度で起こりやすい脳血管攣縮です。出血した血液が脳血管を刺激して強く収縮させ、脳血流低下・遅発性虚血・微小梗塞・神経症状悪化を引き起こします。

つまりSAHなのに、あとから「脳梗塞様」になることがあります。

また最近では、炎症反応・NETs・微小血栓形成なども関与すると言われており、画像で大きな梗塞がないからといって脳循環が安全とは言えません。

急性期には本当に「脳が不安定」な期間が存在します。

水頭症
SAHでは髄液循環障害による水頭症も起こります。

意識変化・歩行低下・反応低下・頭痛・嘔吐が出現し、じわじわと悪化することもあります。

「今日はなんとなく違う」という変化を軽視しないことが大切です。

Hunt and Kosnik分類
急性期の重症度評価として広く使われています。

Grade 状態
0 未破裂動脈瘤
I 軽度頭痛、軽度項部硬直
Ia  急性症状はないが固定した神経症状あり
II  中等度〜強度頭痛、項部硬直あり
Ⅲ  傾眠、錯乱、軽度巣症状
IV  昏迷、中等度〜重度片麻痺
V  深昏睡、除脳硬直、瀕死状態
重要なのは、グレードが低い=安全ではないという点です。
Grade IIでも再出血は十分怖い。

くも膜下出血急性期の臨床図1

血圧管理は時期によって逆転する

新人時代にかなり混乱したのがここでした。
急性期(破裂直後〜治療前後)は再出血予防が目的のため、一般的に収縮期血圧をSBP140mmHg以下、もしくは100〜120mmHgの範囲で低めに管理します。

血管攣縮期(発症後4〜14日頃)は逆に、脳に血液を送ることが重要になるため、SBP140〜160mmHg程度にあえて高め維持することもあります。「昨日まで下げていたのに今日は上げるのか」と当時はかなり混乱しました。これは病態の主敵が変わるからです。

回復期・慢性期は再発予防のため、一般的に130/80mmHg未満を目標に安定した管理を継続します。

くも膜下出血急性期の臨床図2

臨床でどう動くか

基本姿勢:「動ける」と「安全」は違う
若い患者さんほど歩ける・動ける・会話できることがあります。
しかしそれは安全を意味しません。
私は症状増悪・血圧変動・疲労感・頭痛増悪・表情変化を見ながら、「歩ける範囲より手前で止める」を徹底していました。

臥位でのデスクサイクル
まず循環負荷を最小限にした有酸素運動として、臥位・低負荷・短時間で、症状を確認しながら行っていました。

大関節中心のリラクゼーション
頸部や小筋群を無理に触るより、股関節・骨盤・体幹・肩甲帯など大きい部分から全身緊張を落とすようにしていました。
SAH後は不安・交感神経亢進・頭痛・防御性緊張も強くなりやすいため、「運動療法」というより「脳を刺激しすぎない」感覚で関わっていました。

結論:4〜6週間はこの基準で判断し続ける

今の私が整理するとすれば、急性期SAHのリハビリにおける安全管理はシンプルな構造です。
血圧と自覚症状をモニタリングし、どちらかが危険なら負荷を下げる。
これを発症からおおむね4〜6週間は徹底する、ということです。根拠としては、再出血リスクは1か月を超えると急激に低下し、血管攣縮も3〜4週で概ね収束するためです。

ただし「4〜6週間経ったら安全」ではありません。「4〜6週間はこの基準で判断し続ける」というのが正確な言い方です。期間が過ぎたら終わりではなく、モニタリングの基準として持ち続けることが大切です。

まとめ

急性期リハで難しいのは、「動かさないと廃用になる」ことと「動かしすぎると危険」の間に常にいることだと思います。

特にSAHは、症状が落ち着いて見える時期ほど怖いことがあります。だからこそ、「歩けるから進める」よりも「本当に今、安全なのか?」を問い続けることが急性期では大切だと、今でも思っています。

免責事項:本記事は医療従事者の学習を目的とした一般的な情報であり、個別の診断・治療・離床判断を代替するものではありません。実際の臨床では主治医の指示と施設基準を優先してください。

元note記事:【脳卒中病型】くも膜下出血患者――急性期で”慢性的な症状”と”危険な変化”の境界にどう対応するか

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