「AIを使ってみた」という記事は増えました。このシリーズはその手の話ではありません。自分の臨床思考をAIに再現させるために、設計から試行錯誤している記録です。
はじめに
認定理学療法士として臨床を10年以上続けてきました。
その傍ら、若手PTに向けてnoteやKindleで記事や書籍を書き続けてきました。
12冊のKindle本、120本以上の臨床記事。
テーマは脳卒中リハビリから整形外科、神経疾患、キャリアまで幅広く、一貫して「臨床の現場で使える思考」を言葉にしてきたつもりです。
その中でずっと感じていたことがあります。
若手PTの悩みは尽きない。
でも、教える側の時間は限られている。
一般的なAI(ChatGPTやGemini)は、医学的な一般論には答えてくれます。
ただしそれは「平均的な答え」です。
この患者ならどこを見るか、どのリスクを優先するか、なぜその順番で介入するのか——そういった臨床の思考プロセスまでは再現してくれない。
だから考えました。自分の思考そのものをAIにできないか、と。
理学療法士がAIを作るとはどういうことか
「ぴっちAI」は、私がnoteやKindleで積み上げてきた臨床の知識と経験をベースにした、思考補助型のカスタムAIです。
Geminiの「Gem」という機能を使い、自分が書いてきた書籍データを直接読み込ませています。一般論ではなく、自分が書いてきた記事や書籍の内容を優先して答える。答えを出すのではなく、考え方を整理する。検索ツールではなく、思考のフレームを返すAIとして設計しています。

「これがぴっちAIの設計画面。書籍データをGoogleドライブ経由で読み込ませている」
若手PTが臨床でぶつかる壁は、かなり共通しています。一般論はわかるけれど、目の前の患者にどう当てはめるかわからない。リスク管理が「なんとなく怖い」で止まる。先輩の思考を知りたいけれど、忙しそうで聞きにくい。これらはすべて、考え方が言語化されていないことが原因です。
ぴっちAIはここに介入します。質問すると、考えるべき視点・リスク・次にやることを、短く構造化して返す。それだけを出す設計です。
壁1:ウダウダ問題
実際に作ってみると、めちゃくちゃ楽しいです。
ただ、うまくいったわけではまだありません。
一番手こずったのは、私が「ウダウダ問題」と呼んでいるものです。「大変失礼いたしました」から始まる前置き、丁寧すぎる説明、一般論を並べた末に「患者によって異なります」で締める回答。
これが実物です。

「冒頭の「大変失礼いたしました」。これが毎回来る。現場でこれを読む時間はない」
ただ、その後の出力を見ると、考えるべき視点が3つ、リスクが構造化されて返ってきています。問題は入口であって、中身は自分の思考に近いものが出てきている。だから削れる、と判断しました。
壁2:カバーしていない領域をどう扱うか
次に悩んだのが、自分の書籍でカバーしていない領域への対応です

「脊髄損傷の相談に対して、正直に「該当する項目がない」と返してきた。一般論で埋めるより誠実かもしれない」
自分の記事や書籍でカバーしていないことを一般論で補うため、気づくと「自分の思考じゃないもの」が混ざってくる——そう懸念していました。
ただこのスクショを見ると、少なくともこの場面では「ない」と正直に返している。
これはむしろ正しい動作かもしれないと、見方が変わりました。
フォーマットはまだ揺れるので、現場で即時使用するには調整が必要です。「ウダウダを削る」作業と並行して、構造を固定する方向で調整しています。
うまくいっている例

「脳卒中の病型別・血圧管理目標。「なんとなく怖い」を「だからここが危ない」に変換している」
これが、ぴっちAIが目指している出力に近い形です。
病型によって血圧管理の方針が真逆になる。脳出血なら再出血防止で下げる、脳梗塞なら虚血領域への血流確保で維持する——そういった思考の分岐を、短く構造化して返している。一般的なAIが「患者によって異なります」で終わらせる場面で、具体的な数値と根拠まで踏み込んでいます。
正直な現在地
現段階のぴっちAIは、まだ現場でそのまま使えるレベルとは言い難い。
出力は自分の思考ベースにはなっています。でも「これで十分」とはまだ言えない。これが実用レベルなら、とっくに売り込んでいます。
ただ、作ってみてはっきり分かったことがあります。従来のAIがなぜ現場で使えないのか、その理由が構造的に見えてきた。長い、抽象的、決めきらない、現場の時間軸に合っていない。この四つです。
そしてぴっちAIの本当の価値は、ここからだと思っています。現役の理学療法士が「それじゃわからない」とフィードバックしながら改善できること。実際の臨床で試して、使えない部分を削って、思考をさらに言語化する。このループが回せるのは、現場にいる人間だけです。
調べてみても、理学療法士が自分の臨床の知識と経験をAI化して、実運用前提で設計している例はほとんど見つかりません。まだ誰もやっていない領域だと思っています。
多くの人にとってAIは「文章を書くツール」ですが、今回の経験で自分の中での位置づけははっきり変わりました。思考を拡張するパートナー、というのが今の感覚に近い。
ぴっちAIはまだ完成していないツールです。でも、完成していないからこそ価値があると思っています。現場で「それじゃわからない」と言われながら、削って、直して、また使う。
そのプロセスごと作れるのが、このAIの本質です。自分の思考をAIにするという発想は、確実に価値があるはず。
もしあなたが臨床で迷っている、思考を言語化したい、教育に悩んでいるなら、AIを使う側から作る側に回る価値は大きい。その第一歩は、自分の考えを言葉にすることです。
理学療法士の臨床思考過程のAI化は、ここから始まります。
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