【今回のテーマ】 長下肢装具(KAFO)を用いた歩行練習において、いつまでも膝をロック(固定)した状態から脱却し、あえて「膝折れ」を経験させることで患者さんの自立への意識を促すプロセスと、膝のコントロールを再構築する具体的なステップについて解説します。
※本記事は歩行再建シリーズの各論です。歩行についての大切な知識が多く含まれる導入記事:[▶ ①【歩行再建】長下肢装具をなんで使うかわかっていますか?] から読むのをお勧めします。
【免責事項】 ※本記事は、臨床11年目の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。金融商品、物品についての記載があってもそれらの使用を推奨するというのはあくまで個人の見解であることを明記します。それによって生じたいかなる問題も責任を取りかねます。 ※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。 ※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。
前回は、介助者の不安を解消し、患者さんの「動ける感覚」を引き出す長下肢装具の実践的な介助技術についてお伝えしました。(※前回の内容を軽くおさらいしたい方は [▶ 前回の記事へ戻る] からどうぞ) 今回は、歩行再建の次のステップとして、装具の「膝ロック」を外すタイミングと、そのプロセスについて深掘りしていきます。
はじめに:いつまでも「守られた歩行」で良いのか
膝を固定(ロック)した長下肢装具での歩行は、安全に距離を稼ぐためには非常に有効です。しかし、あまりに長くロックしたまま練習を続けると、脳が「装具が支えてくれるのが当たり前」と学習し、自分の足で支える意欲を失ってしまうことがあります。
日々患者さんと向き合う中で、この「守り」を外すタイミングの重要性を痛感しています。今回は、あえて「守り」を外し、自分の足の弱さと向き合うことで、自立への意識を促すプロセスについてお話しします。
1.ステップ1:一度しっかり歩き、体力を「オン」にする
リハビリの開始直後は、まずロックした状態で一度歩きます。これは、以前の記事で触れた「歩行の自動制御機構(CPG)」を呼び起こし、全身の活動性を高めるためです。この「良いイメージ」を持ったまま、次の挑戦へ移ります。
2.ステップ2:あえて「膝折れ」を経験し、依存に気づく
体力に余裕があるなら、短距離でも良いので「支持物(平行棒など)あり」の状態で、ロックを外して歩いてみます。ここで、多くの患者さんは自分の膝がガクッと折れる「膝折れ」を経験します。この「膝折れ」は非常に急激に起こるため、セラピストには万全の備えが求められます。
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物理的なサポート: 装具の一番上の金具(大腿半月)や患者さんの体幹を、いつでも引き戻せるようしっかりとホールドしてください。
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体格差への配慮: 患者さんの体格が大きく、支えきれないリスクがある場合は、無理に歩く必要はありません。「支持物に掴まった状態で、ロックを外して体重を乗せてみようとする」だけでも、膝を支える感覚(あるいは支えられない感覚)は十分に脳へ伝わります。
「あ、今の自分は、こんなに装具に頼り切っていたんだ」 この身体的な気づきこそが、リハビリに対する受動的な姿勢を、「自分の膝で支えなければ」という能動的な姿勢へと変えるきっかけになります。
3.ステップ3:崩れに耐え、コントロールの土台を作る
膝折れや、逆に膝が後ろに突っ張る「反張膝(バックニー)」が起きても、支持物を使いながら転倒せずに耐えられるようであれば、そこが訓練のスタートラインです。
崩れを恐れず、しかし崩れっぱなしにせず、「どうすれば耐えられるか」を脳が模索し始めた段階で、いよいよ繊細なステップ練習に移行します。
4.ステップ4:膝を「わずかに曲げて」支える感覚を養う
ここでようやく、膝を「軽度屈曲位(わずかに曲げた状態)」で保つ練習を始めます。
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セラピストは前方から、自身の膝で患者さんの膝が折れすぎないようサポートします。
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膝を伸ばしきらず、わずかな「遊び」を持たせたまま、じわりと体重を乗せる練習を繰り返します。
「膝折れ」という失敗を経験しているからこそ、この「わずかに曲げて支える」という感覚の重要性が、患者さんの脳に深く、切実に刻み込まれるのです。
【最後に】 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「膝が折れるのが怖いからロックを外さない」のではなく、「自分の課題を知るために、安全な環境で一度失敗してみる」。リハビリテーションにおける失敗は、決して敗北ではありません。セラピストが安全を確保ししっかりと支えているからこそ、患者さんは安心して失敗し、学ぶことができるのです。
膝のロックを外した練習は、非常に疲れます。ですので、「最初の5分はロックを外して集中して膝を意識する。残りの時間はロックをして、リズム良くたくさん歩いて体力をつける」というように、「質の高い練習」と「量を稼ぐ練習」を分けるのが、現実的で効果的な戦略です。
次回は、装具療法のまとめとして、より歩行をスムーズにするための「[▶ 【脳卒中シリーズ】足首のコントロール〜痙縮と弛緩〜(仮)]」について深掘りしていきます。ぜひ続けてご覧ください。
次回記事はこちら:④【歩行再建】「足首」に手詰まりになってない?
前回記事はこちら:②【歩行再建】KAFOって実際怖くない?難しくない?私はこうしている
この「歩行再建シリーズ」を最初から順に学びたい方は、以下のリンクをご活用ください。 ・[▶ このシリーズの記事一覧はこちら]
また、脳卒中の知識を網羅的に把握したい方には、以下の関連マガジンもおすすめです。
・[▶ 【脳卒中病態シリーズ】病型ごとのリスク管理]
・[▶ 【高次脳・姿勢定位シリーズ】麻痺だけじゃない複雑な症状の攻略]
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このテーマをもう少し広げて読みたい方へ
この記事の内容を実際の場面へつなげるときは、次のような判断で迷いやすくなります。
- 膝ロックが必要な段階をどう見極めるか
- 解除するとき何を先に確認するか
- 膝だけでなく体幹・股関節をどう見るか
関連する具体例や、別の場面での考え方は、note・Kindle・ツールにも整理しています。


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