【脳卒中病型】「視床=感覚障害」だけではない|病変部位から運動・覚醒・認知症状を考える

視床病変の運動・覚醒・認知症状 PT臨床

【今回のテーマ:視床病変では、なぜ感覚障害だけでなく、運動失調、覚醒低下、眼球運動障害、認知・情動の変化まで起こるのか】

このシリーズは①から読むと理解しやすくなっています。

①【脳卒中病型】離床で迷わなくなる|病型別バイタル判断の基本

はじめに:視床を「感覚の中継点」だけで捉えない
1.視床は一つの組織ではなく、機能の異なる神経核の集合体
2.視床核の位置と主な機能
3.視床病変で注意したい急性期の変化
4.感覚障害だけでは説明できない症状
5.認知・情動症状とCCASを混同しない
6.視床病変のリハビリで確認したいこと
おわりに:症状を一つずつ、障害された経路から考える

はじめに:視床を「感覚の中継点」だけで捉えない

臨床11年目、二児の父として「家族の安全も患者さんの安全も守り抜く」と決めているパパPTです。

今回は、脳卒中のリスク管理と症候の理解において重要な視床について解説します。

若手の頃、私は視床病変に対して、

「視床だから感覚障害が中心だろう」

と考えていました。

しかし、実際の患者さんを診ていると、感覚障害だけでは説明できない症状に出会います。

  • 麻痺は軽いのに立位が不安定

  • 手足の位置が分からず、動作が大きく崩れる

  • 急に眠そうになり、反応が低下する

  • 言葉が出にくい

  • 注意が続かない

  • 意欲や感情表出が変化する

  • 眼球運動に異常がみられる

こうした症状は、視床を単なる「感覚の通り道」として覚えていると見落としやすくなります。

視床は、機能の異なる複数の神経核から構成され、それぞれが大脳皮質、小脳、大脳基底核、辺縁系などと結びついています。

そのため、同じ「視床病変」でも、障害された場所によって症状は大きく異なります。

免責事項

※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。
※個別の事例は考慮していません。実際の診断、治療、離床およびリハビリテーションの方針については、主治医や所属施設の専門医、多職種チームの判断に従ってください。
※本記事は執筆時点の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。

1.視床は一つの組織ではなく、機能の異なる神経核の集合体

視床は、左右の大脳半球の深部に位置し、第三脳室を挟むように存在しています。

外側には内包、腹側には視床下部、尾側には中脳が位置しています。

臨床で重要なのは、視床が均一な一つの組織ではなく、機能の異なる複数の神経核が集まった構造だという点です。

それぞれの神経核は、大脳皮質の異なる領域と結びついています。

したがって、視床病変を見たときには、

「視床が障害された」

だけで終わらせず、

  • 視床の前方か

  • 内側か

  • 外側か

  • 後方か

  • 内包や中脳まで及んでいるか

  • 片側性か両側性か

を確認する必要があります。

2.視床核の位置と主な機能

視床核の分類は複雑ですが、臨床では大まかな位置と接続先を押さえるだけでも症状を整理しやすくなります。

前方:前核群

視床の前方に位置し、乳頭体や帯状回など、記憶と情動に関係する辺縁系ネットワークに含まれます。

前核周辺が障害されると、

  • 記憶障害

  • 新しいことを覚えにくい

  • 見当識の低下

  • 意欲低下

  • 感情や行動の変化

などがみられることがあります。

「麻痺は目立たないのに、生活行動がうまく組み立てられない」という場合には、運動機能だけでなく記憶や注意の問題を確認する必要があります。

内側:背内側核

背内側核は前頭前野との結びつきが強く、注意、記憶、判断、意欲、情動などに関与します。

この領域の病変では、

  • 注意障害

  • 記憶障害

  • 発動性低下

  • 無気力

  • 易怒性

  • 行動の変化

  • 左病変での言語症状

などが生じることがあります。

内側視床は覚醒に関わる核や経路にも近いため、傍正中部の病変では傾眠や意識レベルの変化を伴う場合があります。

特に両側傍正中視床梗塞では、強い傾眠、記憶障害、行動変化、垂直性眼球運動障害などがみられることがあります。

腹側前方・腹側外側:VA核・VL核

VA核とVL核は、大脳基底核や小脳から送られてくる運動情報を運動前野や運動野へ伝える経路に含まれます。

大まかには、

  • VA核:大脳基底核との関係が強い

  • VL核:小脳との関係が強い

と整理できます。

この領域が障害されると、

  • 運動失調

  • 測定異常

  • 動作のタイミング不良

  • 姿勢制御の低下

  • 不随意運動

  • 運動の開始や切り替えの難しさ

などがみられることがあります。

そのため、視床病変では「筋力が保たれているから歩ける」とは限りません。

随意運動そのものは可能でも、運動の調整や姿勢制御がうまく働かず、立位や歩行が大きく不安定になることがあります。

腹側後方:VPL核・VPM核

一般に「視床=感覚」として知られているのが、この腹側後方核です。

  • VPL核:体幹や上下肢からの体性感覚

  • VPM核:顔面からの体性感覚や味覚

を主に大脳皮質へ伝えます。

この領域が障害されると、

  • 反対側上下肢・体幹の感覚障害

  • 反対側顔面の感覚障害

  • 表在感覚の低下

  • 深部感覚の低下

  • 異常感覚

  • 病変後に出現する中枢性疼痛

などがみられます。

ただし、「感覚障害」と一括りにせず、表在感覚だけでなく位置覚や運動覚を確認することが重要です。

深部感覚が大きく障害されている場合、筋力が比較的保たれていても、患肢の位置を把握できず、立位や歩行が著しく不安定になります。

後方:視床枕・外側膝状体など

視床後方には視床枕があり、注意、視空間認知、視覚情報の統合、言語機能などに関係します。

また、外側膝状体は視覚経路、内側膝状体は聴覚経路に含まれます。

後方視床病変では、

  • 視野障害

  • 視空間認知障害

  • 半側空間無視

  • 注意障害

  • 読字や言語処理の障害

などが出現する場合があります。

「視床病変なのに視覚や言語の症状がある」というときも、必ずしも説明不能な症状ではありません。

視床病変を考えるための図1

3.視床病変で注意したい急性期の変化

視床病変だから一律に危険なのではありません。

特に注意したいのは、

  • 視床出血

  • 血腫や浮腫の拡大

  • 脳室内への穿破

  • 急性水頭症

  • 中脳への進展や圧迫

  • 両側傍正中視床の障害

  • 意識・眼球運動・運動症状の変化

がある場合です。

視床は第三脳室や側脳室に近いため、視床出血では脳室内出血を伴うことがあります。

脳室内に血液が流入して髄液循環が障害されると、急性水頭症を生じ、意識レベルが低下する可能性があります。

したがって、視床出血の患者さんでは、単に血圧と麻痺だけを見るのではなく、

  • 意識レベル

  • 呼びかけへの反応

  • 瞳孔所見

  • 眼位・眼球運動

  • 頭痛や嘔気

  • 新たな麻痺

  • 反応速度の変化

を継続的に確認します。

「昨日も眠そうだったから」「もともと反応が遅いから」と決めつけず、ベースラインから変化していないかをみることが重要です。

4.感覚障害だけでは説明できない症状

視床病変では、近接する神経核や経路が同時に障害されるため、複数の症状が組み合わさって現れます。

麻痺

視床そのものは皮質脊髄路の中心ではありません。

しかし、外側に位置する内包まで病変が及ぶと、片麻痺が出現します。

そのため、視床病変で明らかな麻痺がある場合には、

「視床だから麻痺が出た」

と単純化せず、内包への進展や周辺浮腫も確認します。

運動失調

VL核など、小脳から大脳皮質へ向かう経路が障害されると、視床病変でも失調が出現します。

また、深部感覚障害が強い場合には感覚性失調も加わります。

臨床では、

  • 小脳性失調

  • 感覚性失調

  • 麻痺による不安定性

  • 注意障害による動作の乱れ

が混在している可能性があります。

「視床性失調」という言葉だけで終わらせず、視覚による代償、閉眼による変化、測定異常、運動分解、深部感覚などを確認していきます。

不随意運動・パーキンソニズム様症状

視床は大脳基底核―視床―大脳皮質ループの一部です。

病変の位置や広がりによっては、

  • 振戦

  • 舞踏運動

  • バリズム

  • ジストニア

  • 動作緩慢

  • 運動開始の遅れ

などが出現することがあります。

覚醒・注意の障害

傍正中視床や髄板内核群は、覚醒や注意に関係するネットワークに含まれます。

この領域の病変では、

  • 傾眠

  • 反応の遅延

  • 注意の持続困難

  • 発動性低下

  • 日内・時間帯による反応の変動

などがみられることがあります。

5.認知・情動症状とCCASを混同しない

視床病変では、

  • 遂行機能障害

  • 記憶障害

  • 注意障害

  • 言語症状

  • 発動性低下

  • 易怒性

  • 感情表出の変化

などがみられることがあります。

これらは、前頭前野、辺縁系、側頭葉、頭頂葉、小脳などと視床を結ぶネットワークが障害されることで生じます。

症状の一部は、小脳病変でみられる小脳性認知情動症候群(CCAS)が出ることもあります。

しかし、CCASは本来、小脳病変に伴う遂行機能、視空間認知、言語、情動調節の障害を示す概念です。

視床病変の患者さんにだからといって、小脳症状が出ないわけではありません。

視床は小脳―視床―大脳皮質回路の一部でもあるため、小脳から大脳皮質へ向かう情報が視床で途絶えれば、CCASに似た認知・情動症状が現れる可能性はあります。

「認知症が進んだ」「性格の問題」「リハビリへの意欲がない」と決めつけないことが重要です。

視床病変を考えるための図2

6.視床病変のリハビリで確認したいこと

視床病変の患者さんを担当するとき、私は特に次の点を確認します。

① 覚醒と反応は安定しているか

開始前の意識レベルだけでなく、リハビリ中の変化を確認します。

  • 開眼を維持できるか

  • 呼びかけへの反応速度

  • 指示理解の一貫性

  • 会話量の変化

  • 急な傾眠や反応低下

  • 眼位や眼球運動の変化

急な変化があれば、疲労だけで処理せず、バイタルサインや神経症状を再確認し、必要に応じて中止・報告します。

② 感覚障害を細かく評価できているか

「感覚が鈍い」で終わらせず、

  • 触覚

  • 痛覚

  • 温度覚

  • 位置覚

  • 運動覚

  • 二点識別

  • 感覚消去

  • 異常感覚や疼痛

を可能な範囲で確認します。

特に位置覚障害が強い患者さんでは、本人が「動かせている」と感じていても、実際の患肢位置と認識がずれていることがあります。

これは移乗や歩行時の大きな転倒要因になります。

③ 筋力だけで立位・歩行能力を判断していないか

視床病変では、麻痺が軽くても、

  • 深部感覚障害

  • 感覚性失調

  • 小脳経路の障害による失調

  • 注意障害

  • 半側空間無視

  • 姿勢定位の異常

  • 不随意運動

によって、立位や歩行が大きく不安定になることがあります。

徒手筋力検査だけでは、実際の転倒リスクを捉えられません。

立ち上がり、静止立位、方向転換、足の置き直し、視覚条件の変化などを通して、何が姿勢制御を崩しているのかを確認します。

④ 言葉や意欲の低下を、理解力の問題と決めつけていないか

返答が少ない患者さんでも、

  • 覚醒が低い

  • 言葉を想起できない

  • 発動性が低下している

  • 注意を維持できない

  • 聴覚的な指示処理が難しい

  • 反応までに時間がかかる

など、複数の可能性があります。

返答を急かさず、短い指示にする、選択肢を提示する、視覚情報を加える、反応を待つなど、症状に合わせた関わりが必要です。

おわりに:症状を一つずつ、障害された経路から考える

視床病変を「感覚障害が出る病変」とだけ覚えると、運動、覚醒、認知、情動、眼球運動などの症状を見落とします。

一方で、「視床だから何でも起こる」と考えてしまうと、症状の原因を整理できなくなります。

大切なのは、

  • 病変は視床のどこにあるのか

  • どの神経核や経路が障害されているのか

  • 内包、中脳、脳室へ影響していないか

  • 感覚、運動、覚醒、認知のどこに問題があるのか

  • 昨日や開始前から変化していないか

を一つずつ確認することです。

視床病変では、筋力やバイタルサインだけを見ていても十分ではありません。

特に視床出血、脳室内出血、水頭症、中脳への進展が疑われる場合には、意識レベル、眼球運動、神経症状の変化を慎重に確認します。

「視床=感覚」で止まらず、病変部位とネットワークから症状を考えられるようになると、離床や動作練習で見るべきポイントが明確になります。

■ 次回予告

次回は、画像に写りにくい循環不全を見落とさないために、

「脳卒中シリーズ⑦:【脳卒中:局在】分水嶺梗塞の罠|血圧低下による神経症状の悪化をどう捉えるか」

について解説します。

次回の記事はこちら:
【脳卒中病型】分水嶺梗塞、離床で一気に悪化する“地雷”です

前回の記事はこちら:
【脳卒中病型】めちゃくちゃ危ない「脳幹・小脳・後頭葉」|何が危ないかわかってる?

元note記事:​【脳卒中病型】「視床=感覚障害」だけではない|病変部位から運動・覚醒・認知症状を考える

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