【今回のテーマ】 新人理学療法士に向けた脳卒中リハビリの第3回です。脳出血と脳梗塞という「病型」の違いによる血圧管理の真逆の狙い(再出血予防 vs 虚血の回避)を理解し、現場で離床をストップすべき具体的な判断基準(チェックリスト)を学びます。
【免責事項】 ※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。金融商品、物品についての記載があってもそれらの使用を推奨するというのはあくまで個人の見解であることを明記します。それによって生じたいかなる問題も責任を取りかねます。 ※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。 ※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。
前回は、麻痺の正体を「道(皮質脊髄路)」の寸断として捉え、脳画像のどこを見るべきかを解説しました。(※前回の内容を軽くおさらいしたい方は [▶ 前回の記事へ戻る] からどうぞ) 今回は、いよいよ患者さんをベッドから起こす「離床」の場面で、絶対に知っておくべきバイタル管理とリスク判断についてお伝えします。
「リスク管理って言っても脳卒中には色々種類があるし、とりあえず医師の指示簿の範囲内なら大丈夫なのかな……?」 新人時代の私は、そんな風にどこか「指示待ち」の姿勢で臨床に出ていました。しかしある日の離床中、血圧が指示の基準ギリギリまで上昇した際、回診に来たドクターからこんな言葉をかけられたのです。
「ぴっち君、この患者さんは脳出血なんだよ。基準内とはいえ、そんなにギリギリまで上がっているのが続いているなら、一応報告してほしかったな。再出血のリスクを一番に考えなきゃいけないからね」
突き放すような言い方ではありませんでしたが、その言葉に私はハッとしました。ただ数値を追うだけでなく、「なぜこの疾患では、この数値が重要なのか」という根拠を理解していなかった自分の勉強不足を痛感した瞬間でした。
「変だ」と気づくだけではプロとして半分。その正体を「言葉」と「根拠」で語れるようになること。それが、患者さんの命と自分の専門性を守る唯一の道です。
1. 脳出血と脳梗塞、血圧管理の「狙い」は真逆!
医師の指示(オーダー)には明確な理由があります。姿勢変換で血圧が動いたとき、まず「今、この人はどのフェーズか」を思い出してください。
① 脳出血:血腫という「爆弾」を刺激しない 最大の目的は「再出血の防止」です。 目標値: 収縮期血圧 140mmHg未満が一般的です。 現場の視点: 離床中に150〜160を超えて上がり続けるなら、それは再出血へのカウントダウン。指示簿の「上限」に達していなくても、上昇の勢いが強ければ即座にブレーキをかけるべきラインです。
② 脳梗塞:死にかけた細胞に「水(血液)」を届ける ここでは、詰まった先の脳細胞(ペナンブラ:救済可能な領域)を救うため、あえて血圧を高く保つことがあります。 保存的治療: 220/120mmHgという驚くような高値まで許容されることがあります。 パパPTの解説: 新人の頃、200近い数値を見て「先生、これ下げなくていいんですか!?」と震えましたが、これは脳を守るための体の必死の防衛本能。ポンプの圧を上げないと、詰まりかけた血管の先に血液が届かないからなんです。
2. なぜ血圧は乱高下する?「自動調節能」のストライキ
通常、私たちの脳は血圧が変わっても脳血流を一定に保つ「自動調節能」を持っています。しかし、脳卒中直後はこの装置がストライキを起こしています(自動調節能の破綻)。 この状態では、脳血流は「その時の血圧」に100%依存します。
血圧が上がりすぎる: 脳がパンパンに腫れる(脳浮腫)、または再出血。 血圧が下がりすぎる: 脳に酸素が届かず、梗塞範囲が広がる。
私たちPTは、この壊れた装置の代わりに、離床の負荷を調整する「外付けのコントロールパネル」にならなければいけません。
3. 血圧が高い時期、PTにできる「守りのリハ」
血圧が200近く、「攻め」の離床ができない時でも、指をくわえて待つ必要はありません。血管の抵抗を下げ、廃用を防ぐ方法があります。
大きな筋肉の緊張緩和: 太ももや背中を優しく緩めることで、末梢の血管抵抗を下げ、血圧の安定化を図ります。 リラックスした運動: 背もたれのある椅子にもたれ、余計な力を入れずに手足を動かします。 踏ん張り(バルサルバ)を避ける: 「んんーっ!」と息を止めて踏ん張ると血圧が跳ね上がります。深呼吸を促しながら、軽い運動に留めましょう。
4. 現場で迷ったらこれを見て!「離床ストップ」判断チェックリスト
「起こしてみたら血圧が変わった」「なんだか様子がおかしい」…そんな時、このリストを上から順に確認してください。一つでも当てはまれば、即中止・ベッドへ戻る・看護師へ報告です。
【STEP 1:脳神経のSOS(見た目の変化)】 [ ] 視線の異常: 目が左右どちらかに寄っている(共同偏視)、または内側に寄っている(内斜視)。 [ ] 瞳孔: 左右で大きさが違う(瞳孔不同)。 [ ] 意識レベル: 急に生返事になる、または異常にウトウトして呼びかけへの反応が鈍い。 [ ] 顔色の変化: 急激に青ざめる、または唇が紫色(チアノーゼ)になる。
【STEP 2:バイタルサインの警告(数値の変化)】 [ ] 血圧の乱高下: 200mmHg以上 / 拡張期 120mmHg以上。 [ ] 血圧の急降下: 安静時(寝ている時)から20mmHg以上低下した。 [ ] 脈拍・酸素: 120回/分以上の頻脈、またはSpO2が90%を下回る。
【STEP 3:呼吸と「頑張りすぎ」のサイン(最重要!)】 数値は正常でも、ここを見逃すと翌日の状態悪化に繋がります。 [ ] 息をこらえている: 本人が「大丈夫」と言っていても、動作中に呼吸を止めている場合は、脳や心臓への負担が大きすぎます。長い時間起こし続けず、無理な努力はさせないようにしましょう。 [ ] 息切れ(努力呼吸): 姿勢変換の時点ですでに息が荒い、または最初から肩で息をしている。もし起きてその状態なら、迷わず寝かせて休ませましょう。 [ ] 「ステイ(現状維持)」の判断: 今日がダメなら、無理せず「今日はステイ。明日また様子を見よう」と判断する勇気を持ってください。
【STEP 4:本人の訴え(主観的な症状)】 [ ] 強い頭痛・めまい・吐き気: 実際に吐く、または景色が回るほどの強い訴え。 [ ] 異常な冷や汗: ぐっしょりと嫌な汗をかいている。
おわりに:20分の介入枠を「安全」のために使う
2児の父として、仕事の成果(単位)も気になりますが、それ以上に患者さんの人生を守るのが私たちの仕事です。 指示簿の数値を守るだけでなく、呼吸の状態や本人の頑張りすぎまで見据えて、「今日はリスクが高いので止めましょう」と根拠を持って言える。 それは、かつての私のようにただ数値を眺めて立ち尽くす自分から卒業し、プロとしての第一歩を踏み出すことです。
【最後に】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 病型ごとの血圧管理の意味と、危険なサインを見抜くチェックリストが、明日からの安全な離床の支えになれば嬉しいです。
次回は、安全確認ができた上で、いよいよ具体的な動作アプローチに入ります。「なぜあの人は起き上がれないのか?」を力学的に紐解く [▶ 第4回:起き上がり介助が重いと思ったら] をお届けしますので、ぜひ続けてご覧ください。
この「脳卒中シリーズ」を一覧で確認したい方は、以下のリンクをご活用ください。 ・[▶ このシリーズの記事一覧はこちら]
また、リスク管理についてさらに深く学びたい方には、以下の関連マガジンもおすすめです。
・[▶ 【脳卒中病型シリーズ】病型ごとに違うリスク管理をに自信を持つ]
・[▶ 【脳卒中装具シリーズ】歩行を劇的に変えるデバイスの選び方]
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このテーマをもう少し広げて読みたい方へ
この記事の内容を実際の場面へつなげるときは、次のような判断で迷いやすくなります。
- 病型ごとに何を警戒するか
- バイタルと神経症状をどう組み合わせるか
- 離床を止める変化をどう共有するか
関連する具体例や、別の場面での考え方は、note・Kindle・ツールにも整理しています。


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